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第29話

【新表紙記念】十ヶ月の記録
「ギルバート」


カキン、と小気味良い音に体が震える。
親父に稽古をつけてもらい始めて二年。

四歳の誕生日に貰った剣はもう随分と手に馴染んだ。




「お前には、才能がある。父である俺が保証しよう」
「……ッ」


だけど。


「でも、一年も後に始めた女に負けたッ!」


今日。初めて。


「そうだな」


肯定する親父に、俺はぐっと歯を食いしばる。


「あのお方は──純粋な剣同士の戦いで勝つことはできないよ。お前には、一生な。だから、頭を使う。環境を使う。癖を読みとき風を感じ、己の感覚を研ぎ澄まし──剣を、振るう」


とっておきの剣をだ、と親父は笑った。
「体力も技術もない。あのお方はそれを本能的に他のもので補っている。それは凄い才能だが──あのお方の剣は危うい。あのお方もそれはわかっているのだろうよ」


親父は眩しそうに目を細めた。
「だから……きっと、あのお方は。レベッカ様は。剣をやめるよ」



覚悟しておきなさい、と言われて俺は唇を噛む。

「齡5歳……もうじき6歳か。それが、信じられない。悲しいくらいに、あのお方は自分のことをわかっておられるのだろうな」


友達だといっても。
全てを打ち明けてくれるわけではない。
隠し事があるのはわかっている。


「わからないだろ! 俺にだって勝ったんだ、レベッカはもっともっと強くなる! もっと強い騎士になる!」
「レベッカ様は公爵令嬢だよ」


冷や水を浴びた気分だった。

一気に目が覚める。
彼女は今は手の届く場所にいるが、じきに遠くに行ってしまう存在だ。


「そんなのは……!」


レベッカは、腰に手をあて、眉を寄せて怒る。すごく理不尽だ。
レベッカは、どうしようもなく顔を歪めて泣く。すごくブサイクだ。
レベッカは、花が咲いたように笑う。


……すごく、かわいい。
この気持ちを打ち明けることは気恥ずかしくて。
親父にだってできる気がしない。


そんな俺を親父は優しく見つめ、そして。



「お前は、剣を折るなよ。諦めるなよ。レベッカ様につらく当たるなよ。レベッカ様の力になれよ」
「何を……」
「あのお方は、孤独だから」


哀れみだとかとは違う。
俺は、親父の目を見た。


親父は、真剣そのもので、俺を見返して。
ふ、と笑う。


「そのうち、わかるさ。お前にも」



温かな日差しが俺と親父の剣を照らす。
俺のものよりもずっと大きな剣を手足のように扱う姿は。
やっぱり、眩しく見えた。