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初めは、確かに美しいと思った。
年齢の割に大人びた顔つきと、目映い美貌。
エドガーの女かと勘ぐったが、蓋を開ければ俺様よりもチビなガキ。
エドガーにソッチの趣味がない、とは言い切れないが、妹のように可愛がっている、と思った方がまだしっくりくる。
知性的な目、長い睫毛と絹のような銀髪。
取引もうまい。
エドガーから仕込まれたにしても、このレベルの──危うく、俺様を越えそうなレベルまで高まった話術は目を見張るものがある。
だが、それだけだ。
エドガーの女かはともかく、やつが目をかけている少女。
つまらない男が大事にしている少女もつまらないものだ、と。
奴隷をけしかけてビビらせようと思ったが。
微塵の動揺も見せず、護衛に守られている。
しかも、護衛に隠れている奴隷を教えてすらいた。
おかしい。
なにかおかしいと目を見張れば、彼女の体が少し筋肉質であることに気づく。
この少女は、綺麗で頭がいいだけでなく、腕もたつのだろう。
自然と口元が緩む。
思わぬ掘り出し物をした。
俺様は自分が完璧な人間であると自負している。
そして、俺様の隣に立つ者は俺様ほどでなくても、多少の釣り合いがとれるほどには完璧であらねばならないだろう。
その点、目の前のレベッカは。
血筋、美貌、個人の能力。
どれをとっても完璧に近い。
まさに理想的。
しかも、彼女は……うまく隠しているつもりだろうが、愛情に飢えている。
その年頃で、両親に愛されていないとなると、いかに天才であっても辛いものがあるだろう。
目に見える弱味があるのは付け入りやすくて好都合だ。
「レベッカ嬢、耳をお借りしても?」
ざ、とレベッカの背後に控える騎士が剣を構える。
物騒だなぁ。
「心配しなくてもなにもしないよ。それよりも……今、僕の話を聞かなければ後悔するのはそちらだと思うけど」
「ザルク、下がっていて」
あぁ。やっぱり。
レベッカほど肝の据わった人と話せるのは愉しい。
「エドガーも、この領地の人間たちも返してやってもいい。ただし──」
レベッカの耳元に口を近づける。
ーーー
──「お前が、俺様と婚約を結ぶならな」
頭を鈍器で殴られたような衝撃と震えが体を襲った。
動揺を悟られないよう、ゆっくり目を閉じて、開ける。
憎たらしいほど整ったアランの顔が離れていった。
「わかった。その条件、呑むわ」
私の返答に、アランは満面の笑みを浮かべていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。