「姉上!」
やめて。
そんな純粋な目で見ないで。
私はあなたの救世主なんかじゃない。
「……ぁ、えっと」
「その……」
私は養女でもなんでもない。血統書つきの公爵令嬢だ。
そこらの貴族の子供なんかが身分で私に勝てるはずもない。
「まぁいいわ。私の義弟を見れば何をしていたかわかるもの」
床に座り込み、ゴミやジュースでぐちゃぐちゃになった義弟。
別にこいつを助けたいとまでは思っていないし、関わりたくない。いじめていた連中にとびきりの罰を与えたいわけでもない。
さっさとここから離れたかった。
「もうこんなことしないで。二度目はないわ。……意味、わかるわよね?」
家ごと潰す。
脅しをこめて見ると、彼らは震え上がった。
うん。
もういいよね? 私はいらないよね?
じゃあここから離れるから。
踵を返してまた隅っこに戻ろうとした……そのとき。
「うわあああああああああああああああああああん」
一気に安心したのか、ノアが大声で泣き出した。
周囲の子供たちも釣られて泣き出す。
脅しがききすぎてしまったかもしれない。
そうなれば、私はここから離れられないし、大人たちもこちらに注目する。
もういっそ私も一緒に泣こうか。と、思ったとき。
「何をしているの!!」
母の金切り声が響いた。
頬に衝撃が走り、私は投げ飛ばされてしまう。
うっすらと目を開けると、私を叩いたらしい父親と、ノアを抱き締める母の姿があった。
母はドレスにジュースがつくのも気にしない。
父は、一応私をグーではなくパーで殴るだけの理性は残っていたらしいが、ズキズキと頬が痛い。口の中も切れてしまった。
「……血が繋がっていないからなの? そんなことで弟をいじめるの? あなた、姉として恥ずかしくないの!!?? 友達と多数で弟をいじめるなんて!!」
違う。
違うのに。
──もう、どうでもいいや。
──もう、疲れた。
どうせわかってくれないんでしょ。
それなら説明するだけ無駄だもの。
助けなんて来ない────はず、なのに。
「レベッカ」
「……ッ!?」
まだ成長途中の男の子の声。急いで目を向けると、ここにいるはずのない人がいた。
「ルカ?」
どうして。
貴族でもないルカが、ここにいるの?
「助けに来たぞ」
紫色が目の前に現れる。
なんでギルバートまで、ここにいるの?
まさか。
その時、広間の扉が大きく開け放たれ、フェロモンを放つ男が悠々と歩いてきた。
「エドガー?」
エドガー・ギガンゼル。
初め、その名前を聞いた時から違和感があった。
何故なら、ギガンゼルという名前は王家のものだから。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。