※本編に疲れた作者がお遊びで小話を書いています。
◆ルカside『自覚』
「ルカ。ルカとメリーは避難していて欲しいの」
体温が急激に冷えていく。
理解はしていたつもりだ。
姉も心配だから、きっと……彼女の決断は正しい。
俺は足手まといでしかなくて、彼女と並び立つことはできない。
当然のように並ぶ、エドガーと紫色の髪をした男の子に苛立つ。
反論の言葉もねじふせられて、皆を見送ることしかできなくて。
──自分の感情を自覚したのはいつからだろう。
きっと、一目惚れだった。会うたびに好きになっていった。
怖がりで、度胸があって、頭が良くて、よく笑い、よく食べ、よく隠し事をした。
彼女の心の扉をこじ開けるのは苦労した。
何度も何度も失敗して、それでも諦めず時間を重ねた。
ただ、親しくなりたい。
別に恋人なんて夢を見ていない。
身の丈に合わない願いなんて持っちゃいない。
自分に言い聞かせていた。
大切にしているメイドの弟ということもあってか、俺は彼女に無下に扱われることはなかった。
だけど、いつまでたっても俺は『メイドの弟』でしかなくて。
役に立ちたい。
自分を見てほしい。
彼女を自分が幸せにしたい。
叶わないと知っていても、目で追わないなんて不可能だった。
諦めることなんてできなかった。
「──ッ」
言ってはいけない。
言えば、彼女が困るから。
飲み込んだ告白の言葉が胸に沈殿していく。
彼女の力になりたくて、俺は情報屋の手を広げた。
例えば隣国、デファレスト。
例えば領主、ドランバーグ。
例えば母国、ギガンゼル
自分が彼女の隣に立ちたくて。
恋人になることはできなくても。
願うことはやめられなくて。
ただひたすらに──恋を飲み込む。
◆レベッカside『剣』
「ごめんなさい。もう……本当に無理なの。鍛練は続けようと思う。でも、私はもう剣を握れない。私の剣は誰かを守れない。誰かを傷つける剣だから」
エドガー誘拐事件の後、私は騎士団長とギルバートに剣の稽古をやめることを伝えた。
二人とも残念がってはくれたが、やっぱり令嬢が長く剣を続けることなんてできないだろうと思っていたのか、そこまで引き留められることはなかった。
一瞬感じた寂しさは見ないふりをする。
「……稽古がなくても、ここには来いよ」
ギルバートが真面目な目で私を見つめる。
「うん……ありがとう」
ギルバートには特に変なところばかり見せてしまっているなぁ。
ここが小説で、ギルバートはヒーローの一人だとわかっていたから、関わりたくなかったり、色々。
私がストーリーから外れた今、その必要はない。
思う存分遊ぶことができる。
「老人になったりしても、絶対にいっぱい遊ぼうな! お前が前言ってた『鬼ごっこ』とかで」
おじいちゃんやおばあちゃんになった私たちが鬼ごっこをしているところを想像して笑ってしまう。
「どんだけアクティブな老人なのよ!」
ギルバートとか、屋根の上を走ったりしてそう。
「腰は痛めないように気を付けないとな」
「っぷ……! あははははは!」
「何笑ってんだよ!」
「いや、本当におかしくって……!」
そんな幸せな未来があればいいのに。
「老人になったら……そうねぇ。手紙でも書いてあげる」
「直接会えばいいだろ!」
「えー。だってギルバートうるさそうじゃない。私の心臓がびっくりして止まってしまいそうで怖い」
……きっと、私はその頃デファレストにいるんだろうね。
手紙を書けるかもわからないけど。
もう少し。
もう少しだけ、夢を見させて。
【作者の一人言】
ギルバートと騎士団長がレベッカが剣をやめることについてそこまで衝撃を受けなかったのは、そうなるだろうな…と思っていたからですが、レベッカが思っていることとは少し意味合いが異なります。
以前『十ヶ月の記録』という小話で触れていますので、もし良ければ読んでみてください。
アンケート
好きなキャラは…
レベッカ
37%
エドガー
21%
ルカ
11%
ギルバート
16%
メリー
13%
アラン
2%
投票数: 1039票
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!