「ちょっと、今日は稽古はなしにするわ」
私がそう言うと、ギルバートは目に見えて不機嫌になる。
月に一度はザルクとメリーを連れて夜狼に行ってるんだけど、
場所が場所だし、
低位とはいえ貴族のギルバートを連れて行くのは気が引ける。
それに。
ギルバートは敵なのだ。
今は友達だけど、いずれ私がヒロインに仇なす者になれば、彼は迷いなく私に剣を向けるだろう。
とっておきのカードである夜狼について知られるわけにはいかない……の、だけど。
──
どうしてこうなった。
「おい、レベッカ! お前、こそこそこそこそ剣をサボって男と会っていたのか!」
「ねぇレベッカ。これどういうこと? なんで俺こいつに睨まれてるの? 俺の方がこいつよりも先にレベッカと仲良くなったよね? ね? なんとか言ってよ」
ルカに出迎えられ、しばらく話していると
こっそりついてきたらしいギルバートが物影から飛び出して
私とルカを引き剥がしたのだ。
メリーとザルクは私たちが仲良くじゃれあっているように見えるらしく(二人の目は節穴なのかもしれない)この二人を抑えられる者がゼロ、というわけだ。
「「レベッカ!」」
「あぁもううるさいわね!? 斬るわよ!」
持ち歩いている短刀をひゅん、と取り出せば二人とも押し黙った。
ふん。
「とりあえず、ギルバートは帰ってくれない? 私、ルカと大事な話があるの」
「は? そいつと仲良くいちゃいちゃするのかよ」
「いちゃいちゃなんてしないわよ! ね、ルカ! ……ルカ?」
ルカの方を見るけども、ルカの目は虚ろで顔は赤く。
「……いちゃいちゃ? いちゃ……いちゃいちゃ……」
何を想像してんだか。
「二人ともそういう関係じゃないし、お互いに恋愛感情は一切ないから!
剣をサボってるわけじゃないの!」
どんだけ剣が好きなのよ。
生半可な気持ちはどうの~って言っていたし、私も剣は好きなのでわからなくもないけど。
「お前はなくてもそっちはあるかもしれないだろ!」
「ちょっと疑われてるわよルカ! しゃきっとしなさい!」
「……レベッカ? レンガ? レンガと手を繋いで……」
「レンガに手なんてないわよ」
ルカ、まだいちゃいちゃ発言を引きずっているのか。
「おおっと、レベッカ嬢はモテモテだね」
ゆらり、と。
どこからともなくやってきた。
夜狼番長、エドガーが。
いつものようにフェロモンを撒き散らしながら。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。