第47話

三人と一人
2,352
2021/02/27 11:00
久しぶりの家族四人での夕食。
背後にいるメリーが心強い。

「ノア、頬にクリームがついているわ」
「あっ、すみません……」
「良いのよ」
「ははは。ノアは可愛いなぁ」


味がしない。

こんなに綺麗で美味しそうなのに。

粘土の塊を咀嚼して飲み込んでいるみたいだった。
今すぐ吐き出したい。



──きもちわるい。


一見すれば、穏やかな家族。
笑顔で愛を享受する義弟と、愛を注ぐ両親。

私のことは見なくて構わない。形だけの仲良し家族なら良いのだ。
愛を望んだりはしないから。


これなら一人で食べた方がずっと美味しい。
「姉上、姉上の目は綺麗ですね。父上と同じ色だ。髪は母上と同じ銀髪! ぼくはどちらとも似ていません……」

やめて。
関わらないで。


ぎこちなく笑みを浮かべ、礼を述べる。


「ノア、わたしと同じ銀髪が良いのですか? その緑色の髪も綺麗ですけど……望むなら、ウィッグを作らせますよ」
「そ、そんな……母上、悪いですよ」


私が母と呼ぶだけで怒るその人は、なんでもないことのように言った。


「大したことではありません。レベッカの髪を切って作るのですから簡単です」


──何を言っているのだろう。
髪は女の命。それも貴族の令嬢が、


「そうだな。お前が悲しむなら、レベッカの目をえぐらせようか。父と同じ目を側で瓶付けにでもして楽しむと良い」


──吐き気が酷い。
二人は、義弟に向ける笑顔とは全く違う顔で、私を見た。


「可愛い弟の頼みだぞ?」
「叶えてやることくらい、簡単よね?」



──きもちわるい。きもちわるい。きもちわるい。


「い、や……です」


絞り出した声は掠れていた。



「お前はもうお姉ちゃんなんだ。今までのように我が儘ばかり言ってはいけないぞ」
「そうよ。弟のこともきちんと考えて。それともあなた、まさか義理の弟だからって可愛がらないの? 酷い姉ね。信じられない」


──きもちわるい。


いつ、私が二人に我が儘を言ったのだろう。

そんな記憶はないのだけど。
「そういえば、あなた家庭教師をまだ雇っていなかったわね。ノアと一緒に授業を受けなさい。お姉ちゃんなんだから、ノアの面倒をちゃんと見るのよ」
「ノアはここに来たばかりだからな。人見知りもする可哀想な子だ。使用人が変なことをしないように気を付けるのも姉の役目だぞ」
「家庭教師も一人ではだめね。毎日朝から晩まで頑張りなさい。あなたは不出来なのだから、頑張らなくちゃいけないわよ。忙しくなるわね」


そんなことをしていたら


私の残りの自由な時間は潰れてしまう。


「「もっと頑張りなさい、レベッカ」」


「……は、い」


今、自分はどんな顔をしているんだろう。



「もう。父上も母上も、姉上が困っています! ぼくは大丈夫ですし、容姿についても平気です」



無邪気に笑うノアと、その一言でコロリと態度を変える両親。
体の体温が下がっていく。

ここは、確かにノアにとって楽園だ。
だけど、私にとっては──地獄なんだ。

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