久しぶりの家族四人での夕食。
背後にいるメリーが心強い。
「ノア、頬にクリームがついているわ」
「あっ、すみません……」
「良いのよ」
「ははは。ノアは可愛いなぁ」
味がしない。
こんなに綺麗で美味しそうなのに。
粘土の塊を咀嚼して飲み込んでいるみたいだった。
今すぐ吐き出したい。
──きもちわるい。
一見すれば、穏やかな家族。
笑顔で愛を享受する義弟と、愛を注ぐ両親。
私のことは見なくて構わない。形だけの仲良し家族なら良いのだ。
愛を望んだりはしないから。
これなら一人で食べた方がずっと美味しい。
「姉上、姉上の目は綺麗ですね。父上と同じ色だ。髪は母上と同じ銀髪! ぼくはどちらとも似ていません……」
やめて。
関わらないで。
ぎこちなく笑みを浮かべ、礼を述べる。
「ノア、わたしと同じ銀髪が良いのですか? その緑色の髪も綺麗ですけど……望むなら、ウィッグを作らせますよ」
「そ、そんな……母上、悪いですよ」
私が母と呼ぶだけで怒るその人は、なんでもないことのように言った。
「大したことではありません。レベッカの髪を切って作るのですから簡単です」
──何を言っているのだろう。
髪は女の命。それも貴族の令嬢が、
「そうだな。お前が悲しむなら、レベッカの目をえぐらせようか。父と同じ目を側で瓶付けにでもして楽しむと良い」
──吐き気が酷い。
二人は、義弟に向ける笑顔とは全く違う顔で、私を見た。
「可愛い弟の頼みだぞ?」
「叶えてやることくらい、簡単よね?」
──きもちわるい。きもちわるい。きもちわるい。
「い、や……です」
絞り出した声は掠れていた。
「お前はもうお姉ちゃんなんだ。今までのように我が儘ばかり言ってはいけないぞ」
「そうよ。弟のこともきちんと考えて。それともあなた、まさか義理の弟だからって可愛がらないの? 酷い姉ね。信じられない」
──きもちわるい。
いつ、私が二人に我が儘を言ったのだろう。
そんな記憶はないのだけど。
「そういえば、あなた家庭教師をまだ雇っていなかったわね。ノアと一緒に授業を受けなさい。お姉ちゃんなんだから、ノアの面倒をちゃんと見るのよ」
「ノアはここに来たばかりだからな。人見知りもする可哀想な子だ。使用人が変なことをしないように気を付けるのも姉の役目だぞ」
「家庭教師も一人ではだめね。毎日朝から晩まで頑張りなさい。あなたは不出来なのだから、頑張らなくちゃいけないわよ。忙しくなるわね」
そんなことをしていたら
私の残りの自由な時間は潰れてしまう。
「「もっと頑張りなさい、レベッカ」」
「……は、い」
今、自分はどんな顔をしているんだろう。
「もう。父上も母上も、姉上が困っています! ぼくは大丈夫ですし、容姿についても平気です」
無邪気に笑うノアと、その一言でコロリと態度を変える両親。
体の体温が下がっていく。
ここは、確かにノアにとって楽園だ。
だけど、私にとっては──地獄なんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。