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第25話

悪夢
──

「……これで、いいのか」

「ギルバート」

「……これで、いいのですか」


 妖艶な雰囲気を纏う女性は、頭を垂れる騎士を見下ろす。
 紫の騎士、ギルバート。彼はその顔の良さを気に入られ、長い間多少の不敬も許されて、レベッカの護衛を勤めていた。

 震える彼の声には怒りと憎しみが滲んでいる。
 それを愉快だと高らかに笑うレベッカは、まさしく極悪非道の悪役令嬢。
 けばけばしいメイク、豪奢なドレスに身を包み、税を尽くした生活を送る彼女は、その鋭い硝子のように整った顔をギルバートへと向ける。

 幼さはすでに消え、逞しい男となったギルバートだが、彼の首に刻まれているのは奴隷の印。
 ギルバートはレベッカに抵抗することができないようにされていたし、レベッカの命令は絶対だった。

 そう、例え、その命令が──

「これであなたは大量殺人鬼ね。あぁ愉快だわ」


 人殺しであったと、しても。

「ーーッッ!!」


 憤怒に染まった表情で、拳をいくら固く握ろうとも、レベッカには届かない。
ただ、側を転がる、大量の騎士の首に。
同僚や先輩や──父親の、首に。
自分が殺した、彼らに。
レベッカへの復讐を強く強く誓った。

──
「ぎょえええええええええええ!」
「お目覚めですか、お嬢様」


 朝。私は、最悪の目覚めを経験した。
 ヒーローの一人であるギルバートに近づいてしまった報いか。
 前世で読んだこの小説の夢を見てしまったのだ。


 それで、忘れかけていたことに気づかされた。


 私はこの小説の『悪役令嬢』レベッカ。
 小説本編では語られなかったが、ギルバートのこの恨みよう。


「これ、追放された後に私殺されたりするんじゃないの?」


 たらーり、と嫌な汗が吹き出す。
そうだ。

だから極力、私は関わらないようにしようと思っていたではないか。
でも、楽しすぎたのである。


初めは…いや、今だって生意気だと思っているが、一緒に剣を振っていれば、仲間意識も芽生えた。


「……それと」


自分の性格が変わってきている。
世界が、ストーリーを改編しようとする私を阻むように。


時折疼く激情に流されれば、私は物語の中のレベッカと同じ行動をとる。


癇癪持ちで気に入らないものは死を持って制し、欲しいものは手にいれる。
極悪非道の彼女になれば、私はきっと。



ギルバートに命じるのだろう。
奴隷の印を刻まれ、幼い頃からレベッカに拘束された少年に。


『お前の大切な騎士たちを殺せ』と──



既に平民は気に入らぬと放り出されていたザルクを除いて。



彼は、大切な人達に。
『逃げて』と叫びながら剣を振るうしかないのだ。
レベッカへの復讐のために鍛えていた剣のせいで。


強くなりすぎた彼は、全員に勝ってしまうのだから。