第34話

答え合わせ
2,727
2020/12/05 10:54
「ぎゃあっ!」


ザルクに放り投げられる。
どうにか地面に着地するが、すさまじい剣の交じる音がして、何かが地面を濡らした。

私の靴も少し汚れた。



その赤いものを見て、少しくらりときてしまう。



「前向けバカ!」


エドガーの声にはっとする。

そこには、筋肉だるまみたいな男が猛然とこちらに向かってきていた。

夜狼の連中じゃない。
この一年で、私は夜狼の人たちとわずかながら交流があった。
彼らの顔と名前を覚えるのは、頭の良いレベッカの脳ならば簡単なこと。


「ーーっ!」


愛剣で攻撃をいなす。
すごい力で吹き飛ばされてしまいそうだ。

「はっ、見ろよ……別嬪だぜ」
「こんなところになんでいるのかわからねぇが……」
「おい、嬢ちゃん、いいことしようぜぇ……」
「変態だな。そんな趣味だったのかよ。まだチビだぜ? 色気の欠片もねぇ」


げらげらと、下品な会話を目の前でされ、私は顔をしかめる。
でも、なんだか。

「……ねぇギルバート、私ってやっぱり別嬪なのかな」
「お前今それが気になるのか!?」


いやぁ、褒められることってなかなかないから……。



「おい、もっと怒れよ! お前今、すげぇバカにされてんだぞ! いつもみたいに怒れよ!」



不思議と怒りが沸いてこないのだ。
なぜだろう。

「……あなたたちなんて、私の両親と比べればずっと『善人』だわ」


なんだ。
この程度か。

そう思えてしまえば、さっきまで感じていた恐怖はなくなっていた。
「はぁ!? このガキ、何をーー」
「だって、そうじゃない」


相手の攻撃の力を利用して捻り返す。
相手の武器が手から飛んで、私の手に収まった。それをボキリと折る。


「実の娘を監禁したりしないでしょう? 暴力を振るったりしないでしょう? 火であぶったりしないでしょう? 指の爪をはぐことも、食事にガラスの破片をいれることも、お気に入りの人形を目の前でバラバラにすることも、泣く私を踏みつけて高笑いすることも、無視をしたり、毒を盛ったり、死ねと罵ったり、使用人に言いつけて私を殺そうとしたりーーしないでしょう?」


大丈夫。わかっている。


「きっとーーあなたがたは、善人よ。根っからの悪人なんて、この世界に三人だけで十分だもの」



あぁ。
気持ちがいい。
武器を奪って破壊していく。

暇があれば意識を刈り取る。



なんだか、気分が高揚していた。
私の中の『レベッカ』が。『悪役令嬢』レベッカが。


歓喜に震えて悪を行う。
「私の愛すべき両親と……私。そうでしょう?」



敵の呻き声が返事をした。

「……レベッカ?」



その声にはっとして振り向けば、信じられないというように、ギルバートが私を見ていた。

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