「……ギルバート、さん」
デファレストに向かうための手続きをしているギルバートに勇気を振り絞って話しかける。
サラにとって彼は良い意味でも悪い意味でも特別な存在だ。
目を抉られた原因の発端にも関わらず、ルカと違って早々に味方と判断したし、ノアから守ってくれもした。
ギルバートの想いが誰へ向かっているかは知っていた。
自分に似ていて、似ていない人。
忠誠だとか、戦友としての意識だとか。それでは説明できない感情をギルバートはあの人に向けている。ただ、その気持ちを伝えることはないだろうし、彼女から離れると判断したのだ。その間に自分の気持ちを丁寧に整理してしまうつもりなのだろう。
「あ、どーも」
ぎこちない挨拶に、ぎこちない笑みを返した。
ただ、会話と呼ぶのも躊躇うようなそれに、心臓が跳ねる。
サラも自分がギルバートに好意を持っているのは自覚していた。
恋と名付けるには時期尚早だが。
◆◆◆
続いてサラはある病室に入る。
部屋には果物や高級菓子、花束がずらりと並んでいる。そのほとんどはノアからだ。
当然である。
彼は大勢に慕われるタイプではない。
むしろ見舞いの品に毒を混ぜられてもおかしくない。
「……」
ただ、一輪の紫色の花だけを手に持って、サラが入ってきた際も目を離すことがなかった。
そうしていると、恐ろしい怪物のようだったアランが無垢で何も知らない幼子のようにすら見える。
「お前が見舞いに来てくれるとはな。サラ」
「……」
「そう黙らずとも良い。もう何もできやしないさ」
「……わたし、は。貴方は死んで当然だと思います。死んで苦しんで、懺悔をしたって足りない。あんな残酷なことをしておいて最後に花に囲まれ治療されるなんて」
「……同感だよ。ただ、悪いな。俺はまだ死ねない。国の復興を余所に任せてばかりではいられないんだ。俺のしたことは俺も、俺を憎む奴等も、総出で俺に償わせる……償いきれないかもしれないが。お前がわざわざ俺に罰を与えなくても、勝手に俺は罰せられ……殺されるだろうな。でもまだ、その時じゃない。俺は国を整えていく。正していく。その義務があるし、俺もそうしたい。……デファレストを愛しているんだ」
その紫色の花は、きっとレベッカからなのだろう。
サラは、アランが自分に向かって話しているのか、レベッカに対して話しているのかわからなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!