不思議なことは何故かあるもの。
普通なら誰でも、人が乗ってきたら
気づくはずなのに。
人一倍、人に敏感な私が気が付かなかったんだから。
一瞬だけ、その人がいる所で素を
出してしまった。
その後すぐに気づいて……
長い長い沈黙。
もういっそのこと穴を自分で掘って潜り込みたい気持ちになりながら、最上階の社長室までの道のりをなんとか耐えた。
そしてなんという偶然か、その人も最上階まで
上がって来たんだ。
そしてそのまま社長室へ。
社長は若めの綺麗な女の人だった。
緊張しながら答える。
てかなんであの人ずっと着いてきてるの?
え?
社長が指さしたのはさっきエレベーターに
一緒に乗ったあの人だった。
まじか…………
最悪のスタートだ。
しかも無愛想なんだけど。
お兄ちゃんみたいな元気すぎるタイプも無理だけど無愛想もちょっと会話が続かなそうでキツそう…………
お礼を言ってとりあえず社長室を出る。
そこでまだ名前も名乗っていなかったことに
気がつく。
だって私の兄はあの江口拓也だからね。
声優のことはまあまあ知っているつもりではいる。
それなりに忙しくなりそうだな。
あー。気まずい。
そう言って梅原さんは下に降りていった。
強引に切ったな。
ま、最初はこんなもんか。
ちょっと不安も抱えながら私は家路についた。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!