会社近くの喫茶店。
少し先のカフェまでは、歩きたくないからいつもココ。
座る場所は、窓際カウンター。
この席で紅茶を飲み、通り過ぎ行く人達をぼんやり眺めるのが習慣になった。
自分の使命を全うする正義にもがいていたあの頃、こんな日が来るなんて1㎜も思っていなかった。
紅茶を飲み、暖かいそれが身体全体を優しく広がる。ささやかな幸せを実感。
目の前を高校生たちが通り過ぎていく。
キラキラしていて、未来に希望を抱き
楽しそうだなぁ。
そんな光景を目にすると
高専時代のあの時を思い返す。
‐呪術高専4年生‐
1つ下の家入祥子は、完璧に他人の治療ができる数少ない呪術師。大人っぽいルックスにサバサバした性格。そして、在学中に医師免許を取得した。
何のルートで取得したのか謎だけど。
それにしてもすごい。
在学中は2人で医務室を切り盛りして、仲良くしてくれた。
私は、生まれつき特殊な能力があり、遠隔地の出来事を感知できる能力とか、特定の人物に関する過去の事件や特別なことがらを知る事ができた。
呪術なんて使えないのに、私は特待生で高専に入学した。
高専は呪術師不足とか、色んな要因で学園自体が衰退しないよう、上層部が裏で動いていた。
手を汚さず資金調達が必要だったから。
そこで私に白羽の矢が当たったのだ。
能力を最大限まで高め、闇の世界で利用するために。
私の持つ特殊能力は家系で、世の中には変人扱いをされ続け理解されず、代々肩身の狭い思いをしてきた。
事件に纏わる犯人探しとか、超能力捜査官として役に立つこともあった。でも、警察の手柄で私達の能力が表に公表される事はなかった。
呪術師育成の中枢を担うこの高専にスカウトされた時、自分達のやって来た事を認めてもらえるチャンスと、両親は飛び付いた。
何も知らない私は両親に説得され、半ば強制的に入学したと言うわけだ。
普通教育の時間割以外は、皆とカリキュラムが違うため、医務室で実践や透視実験などを行っていた。
友達らしい友達もできなく、ずーっと淋しく思っていたんだ。
だから祥子が来てくれた時は、叫びたくなるほど嬉しかった。てか、叫んだけど。
祥子が仲良くしてくれたお陰で、残りの高専生活に花が咲いたような感じがした。
‐カフェ‐
カラカラ~とアイスコーヒの氷をストローで回す。
五条悟、夏油傑は祥子の同級生。
確かに、2人とも背も高いしイケメンだよ。
夏油は最近彼女ができたって、祥子が言ってた。
でも、医務室に来るのは完全にサボりでしょう。
五条なんて冷蔵庫にポッキーストックしてるし。ほぼ自分の部屋みたいに使ってる。
私は特に優しくされた記憶もないし、弄られて投げっぱみたいな感じだもん。どこか行ってしまったり、スマホ見始めたり。扱いが散々なんですけど…
何を見てそぅ思うかなぁ・・・?
祥子の思い違いじゃない?
でもそんな事言われたら、意識すんじゃん!
あたしも人並みに彼氏欲しいって時もあったけど、卒業が近付いて来るにつれ、そんな事より自分の進路に悩む様になっていた。
ある日私は学長に呼ばれた、
卒業したら、私は高専から出たい旨を学長に伝えていたからだ。
1学年上がる事に、上層部が私に求める真の目的が理解できるようになり、自分の将来に絶望を抱いた。悪巧みを施行する大人達に、荷担したくない。
自分の能力を使って、皆を幸せできたらいい。
ずっとそう思っていた。
それが私の夢であり正義。当たり前と思ってた。
でもここにいる以上、そんな夢は叶える事ができないと言うことに気付いた。
本来、特待生で入学した以上はその敷かれたレールに乗り進まなければならない。違反行為は厳しい罰をうける。
特待解除となれば、口外される前に確実に消される。もしくは、能力を完全に消される。どちらにせよ、事実上死ぬ事になる。
実際、私はそんな目に遭って消えていった何人かを知っていた。
学長には、当然私の気持ちは伝わらず
考え直すよう促され、秘匿死刑対象になりかねないと脅された。
自分じゃどーにもできない事への苛立ち。
これから先の自分を慧眼してみようか…
あたしの未来はどうなるんだろう。
自分自身に能力は発動させてはダメなんだけど、
…どうせ消されるなら、掟破って死んだ方がマシかもしれない。
そんな事を考えながら、医務室へ戻った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。