仕事を終え、パソコンの電源を落とす。
時刻は二十二時を少し過ぎていた。
今日も残業をしていたのは数人だけで、そのほとんどはもう帰ったらしい。静まり返ったオフィスに軽く頭を下げ、僕は鞄を肩へ掛ける。
エレベーターホールのボタンを押す。
上階に止まっていたランプが、一つ、また一つと階を下りてくる。
胸の奥には、名前のつけようもない疲労感が沈んでいた。
機械的な音を立ててゆっくり開いていく扉を
何気なく見つめていた、その瞬間。
思わず息が止まった。
そこに立っていたのは、ジュンソヒョンだった。
「……ぁ」
向こうも少しだけ目を見開く。
一瞬だけ流れた気まずい空気。
それでもヒョンは、何事もなかったように
少し身体をずらした。
『乗る?』
いつもと変わらない、穏やかな声。
「‥はい、」
短く返事をして乗り込む。
扉が閉まり、狭い箱の中に僕たち二人だけが残された。
モーターの低い音だけが静かに響く。
以前なら、この短い時間にも他愛ない話をしていた。
「今日も遅くなりましたね」
そんな一言から始まって、仕事の話になったり、
休日の予定を聞いたり。
たった数十秒の会話が、僕は好きだった。
でも今は‥
隣にいる距離は変わらないのに、心だけがひどく遠い。
重苦しい沈黙に耐えきれず、僕は前を向いたまま口を開いた。
「……最近」
自分でも驚くくらい掠れた声だった。
「最近、あの人とよく話してますよね。」
ジュンソヒョンは少しだけ首を傾ける。
『あの人?』
「……同じ部署の人です。」
「ああ。」
それだけ言うと、ヒョンは前を向いたまま静かに答えた。
『仕事の相談を受けることが増えただけだよ』
その声には、特別な感情は何も乗っていない。
だからこそ、胸が苦しくなる。
「‥そうですか」
短く返したはずなのに。
口は、それで終わってくれなかった。
「……人って、変わるものなんですね」
ヒョンがゆっくり僕を見る。
『変わる?』
「ヒョン、前に言ってたじゃないですか」
視線は合わせられない。
閉まったままのエレベーターの扉だけを見つめる。
「‥‥‥」
「だから……」
喉が熱い。
言わなければいい。
そんなことは分かっている。
それでも、一度溢れた言葉は止まらなかった。
「最近見てると」
「そういうわけでも、ないのかなって」
言い終えた瞬間、後悔した。
こんな嫌味を言いたかったわけじゃない。
ただ苦しかっただけなのに。
しばらく沈黙が流れる。
ジュンソヒョンは否定もしない。
怒りもしない。
ただ静かに息を吐いて、小さく笑った。
その笑顔は、どこか寂しかった。
『……そう見えたなら、ごめん』
静かな声だった。
ヒョンは何に謝っているのだろうか。
『でも、違うよ』
エレベーターが一階へ近づいていく音が聞こえる。
『変わったんじゃない』
『‥変わろうとしただけ』
その一言が、胸に深く刺さる。
『あの日、僕は告白したつもりだったんだ』
『きっと伝わってないだろうけど』
ジュンソヒョンは笑う。
優しくて、どこか諦めきった笑い方だった。
『同じ会社なのに居づらくしちゃったよね』
『でも‥あの人とは、本当に仕事だけ』
『好きになったわけじゃない』
少し間を置いて、小さく続ける。
『たぶん、僕はもう簡単には好きになれないと思う』
その言葉で、ようやく気付く。
ヒョンは、前に進んだんじゃない。
僕を諦めるために、自分の気持ちを何度も押し殺してきたんだ。だから、あんなに自然に笑えていた。
だから、以前みたいに接してくれていた。
全部、僕のためだった。
そして僕は――。
あの日、一番大切な返事を間違えた。
そして気付いたときにはその間違いを取り消すように
言葉が出ていた。
「……違います」
自分でも驚くほどはっきりとした声だった。
ジュンソヒョンがゆっくりと僕を見る。
その目には責める色も、期待する色もない。
ただ、静かに僕の次の言葉を待っていた。
「‥あの日の返事は」
一度息を吸う。
胸の奥で何度も繰り返してきた言葉なのに、口にするだけでこんなにも苦しい。
「…あの瞬間の僕が、自分を守るために
選んだ言葉でした。」
ヒョンの表情がわずかに揺れる。
「本当に伝えたかったことは‥別にあります」
エレベーターの中に沈黙が落ちる。
モーターの低い音だけが、やけに大きく耳に残った。
「ヒョンが、あの時…あんなふうに打ち明けてくれた
こと、本当はすごく嬉しかったんです‥」
「でも、その嬉しさより先に、『もし今の関係が壊れたら』とか、『気まずくなったら』とか……そんなことばかり考えてしまって」
自嘲するように笑う。
「気づいたら、自分を守る返事をしていました。」
「ヒョンを傷つけたことも分かってます」
「今さら、こんなことを言う資格なんてないことも‥」
「それでも」
ようやくジュンソヒョンの目を見れた。
逃げずに、まっすぐ。
「今の僕は、自分を守る言葉じゃなくて」
「本当に伝えたい言葉を、選びたいです」
ようやくそう言えたとき
小さく電子音が鳴り、エレベーターが一階に到着する。
扉がゆっくりと開く。
外には誰もいない。
夜のロビーは静まり返り、白い照明だけが床を照らしていた。
ジュンソヒョンは開いた扉へ一度だけ視線を向ける。
けれど降りようとはしなかった。
静かに「閉」ボタンへ指を伸ばす。
電子音とともに、ゆっくりと扉が閉まっていく。
もう一度、二人きりになる。
「‥最後まで聞くよ」
穏やかなその一言に、張り詰めていたものが少しだけほどけた。
「ヒョン」
震える息を飲み込んで、ゆっくりと口を開く。
「僕は‥、 僕も…好きです」
この言葉がヒョンに届いたと分かったのは、
いつもみたいなヒョンの穏やかな笑いだった。
いいね嬉しいです🎶🎶
♩♩
昨日カムバのティザーが出ましたよね!!
見ましたか?!?!
今回のカムバ楽しみでたまらないです💘💘
監督によるとジュンソはカットがかかっても
ずっとピアノを弾いてたみたいです🥹🥹
それと今日アルノのプラチャLIVEしてくれて
嬉しかったです♩突然の먹방ラバンで驚いたけど‥ㅎㅎ












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!