第28話

初撮影
2,480
2020/06/04 13:00
最初はやはり、私の紹介動画を撮るらしい。


どこかの動画にしれっと私が混ざるみたいな感じだと思ってたけど、ちゃんとそこは丁寧にやってくれるらしい。有難い。


カメラマンをふくらさんが担当して、私と伊沢さんの2人でカメラに写る。

他のメンバーはというと、
カメラの後ろでどこか心配そうな顔をしながらこちらを見ている。


私も緊張してるし、不安な感情が表に出ていないか少しだけ心配だ。


伊沢拓司
はいどうもQuizKnock⋆¥”+#)+&の伊沢です!
いつも通りの聞き取れない挨拶に、いつも通りの背景。
でも、1つだけいつもと違う。
それは、私がQuizKnockのカメラに写っていること。
伊沢拓司
そして!
あなた

新メンバーのあなたです!

伊沢拓司
はい、ということでね!
伊沢拓司
これからQuizKnockの動画メンバーにこの子も加わることになりました!
伊沢拓司
どこの大学に行ってるんだっけ?
あなた

東京大学教育学部2年です、!

伊沢拓司
いや〜もう当たり前のように東大という言葉が出てくるのって怖いですね笑笑
QuizKnockのCEOが今更何言ってんだと思いながら、
それからも何個かの簡単な質問に答えた。


そして動画のシメ。
伊沢拓司
それでは、顔だけじゃなくて頭もいいあなたちゃんをこれからよろしくお願いします!
この言葉を聞き流して一緒にお辞儀しておけばよかったのに、私は。
あなた

!?え!?

突然褒められて、思わず素っ頓狂な声を出してしまったのだ。





と、その瞬間。時間の流れが止まった気がした。
あなた

あ、えっと、

まだ撮影中だ、落ち着け私。カメラに向かって挨拶。
あなた

よ、よろしくお願いいたします!

ふくらP
はいカット〜
ふくらP
伊沢、駄目だよ突然褒めちゃ
ふくらP
あなたがびっくりしちゃうでしょ
伊沢拓司
すまん、つい口が滑った
あなた

いや全然大丈夫です、!

あなた

私の方こそ突然驚いたりしてしまってすみません…

タメで話すのを忘れたわけではないけれど、あまりの申し訳なさでどうしても敬語になってしまう。
伊沢拓司
ううん、さっきのは俺が悪いから笑
ふくらP
まあ、とりあえず休憩挟もっか
ふくらさんのその一声で休憩時間となり、
私は廊下に出て通路の壁にもたれかかった。


さっきの撮影を思い出す。

ああいうところで笑って流せないところ、私もまだまだだなぁ…。

社交辞令みたいなもんだし、あんなのお世辞に決まってるのに。

一瞬でも本気で言ってると勘違いして流れを止めてしまった数分前の自分を殴りたい。

そしてこんなちょっとしたことでクヨクヨしてる自分も殴りたい。
山本祥彰
あなた?
あなた

やまもと、さん?

ひょこっと部屋から顔を出している山本さんを見て、
自分でも驚くほど弱々しい声が出た。
山本祥彰
よかった、どこ行っちゃったかと思った
そう言いながら私の隣で一緒に壁にもたれかかる山本さん。
山本祥彰
…なんか、悩んでる?大丈夫?
あなた

っ、いや、大丈夫です!全然元気ですよ

無理やりにでも笑顔を作る。

こんな小さなことでめちゃくちゃ落ち込んでいるだなんて誰にも知られたくなかった。
山本祥彰
ほんと?それならいいんだけど
山本祥彰
そうそう、初撮影といえばさ、ネプリーグを改良した企画で僕が答え言っちゃったの知ってる?‪
あなた

あ、知ってます!「る」って言っちゃったやつ

山本祥彰
そうそれ‪w‪w‪w
山本祥彰
今でこそ笑い話になってるけど、
「る」って言っちゃった瞬間は
本当にやらかしたと思ったし
結構落ち込んだんだよねぇ〜(笑)
山本祥彰
でもね、今は逆にネタになってるし
結果的にインパクトも残せたわけだから、
僕的にはあれは失敗だとは思ってないんだ
何で急にそんな話をするんだろう。


一瞬そう思ったけれど、これは山本さんなりの優しさなんだって気付いた。
きっと今私の隣で過去の自分の話をするこの人は
私がさっき無理して笑ったこともその理由も、
恐らく全て分かっているのだろう。


その上で何気なく雑談をしているフリをして、私を元気付けようとしてくれているんだ。
あなた

山本さん

山本祥彰
ん?
あなた

山本さんって、本当に良い人ですね

いつもは恥ずかしくて素直に人を褒めるのは抵抗があるけれど、今回は何故かすんなりと言えた。
山本祥彰
ふふっ、そうかなぁ
山本祥彰
あなたからそう見られてるなら嬉しいな
照れくさそうに微笑むその姿が何だか綺麗でかっこよくて、見惚れてしまいそうになる。
山本祥彰
まぁ、とりあえず
山本祥彰
リラックスしてやるといいよ、ああいうのは
山本さんの言うああいうの、とは
きっと撮影のことを言ってるんだろう。
あなた

うん、ありがとう



その後、休憩時間が終わり撮影が再開したけれど
山本さんの「リラックスしてやるといいよ」というアドバイスのおかげで緊張しすぎず、上手くできたと思う。
本当、山本さんは優しくて良い人だなぁ。
心の中で山本さんに感謝しながら、私はその日の撮影を終えたのでした。

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