最初はやはり、私の紹介動画を撮るらしい。
どこかの動画にしれっと私が混ざるみたいな感じだと思ってたけど、ちゃんとそこは丁寧にやってくれるらしい。有難い。
カメラマンをふくらさんが担当して、私と伊沢さんの2人でカメラに写る。
他のメンバーはというと、
カメラの後ろでどこか心配そうな顔をしながらこちらを見ている。
私も緊張してるし、不安な感情が表に出ていないか少しだけ心配だ。
いつも通りの聞き取れない挨拶に、いつも通りの背景。
でも、1つだけいつもと違う。
それは、私がQuizKnockのカメラに写っていること。
QuizKnockのCEOが今更何言ってんだと思いながら、
それからも何個かの簡単な質問に答えた。
そして動画のシメ。
この言葉を聞き流して一緒にお辞儀しておけばよかったのに、私は。
突然褒められて、思わず素っ頓狂な声を出してしまったのだ。
と、その瞬間。時間の流れが止まった気がした。
まだ撮影中だ、落ち着け私。カメラに向かって挨拶。
タメで話すのを忘れたわけではないけれど、あまりの申し訳なさでどうしても敬語になってしまう。
ふくらさんのその一声で休憩時間となり、
私は廊下に出て通路の壁にもたれかかった。
さっきの撮影を思い出す。
ああいうところで笑って流せないところ、私もまだまだだなぁ…。
社交辞令みたいなもんだし、あんなのお世辞に決まってるのに。
一瞬でも本気で言ってると勘違いして流れを止めてしまった数分前の自分を殴りたい。
そしてこんなちょっとしたことでクヨクヨしてる自分も殴りたい。
ひょこっと部屋から顔を出している山本さんを見て、
自分でも驚くほど弱々しい声が出た。
そう言いながら私の隣で一緒に壁にもたれかかる山本さん。
無理やりにでも笑顔を作る。
こんな小さなことでめちゃくちゃ落ち込んでいるだなんて誰にも知られたくなかった。
何で急にそんな話をするんだろう。
一瞬そう思ったけれど、これは山本さんなりの優しさなんだって気付いた。
きっと今私の隣で過去の自分の話をするこの人は
私がさっき無理して笑ったこともその理由も、
恐らく全て分かっているのだろう。
その上で何気なく雑談をしているフリをして、私を元気付けようとしてくれているんだ。
いつもは恥ずかしくて素直に人を褒めるのは抵抗があるけれど、今回は何故かすんなりと言えた。
照れくさそうに微笑むその姿が何だか綺麗でかっこよくて、見惚れてしまいそうになる。
山本さんの言うああいうの、とは
きっと撮影のことを言ってるんだろう。
その後、休憩時間が終わり撮影が再開したけれど
山本さんの「リラックスしてやるといいよ」というアドバイスのおかげで緊張しすぎず、上手くできたと思う。
本当、山本さんは優しくて良い人だなぁ。
心の中で山本さんに感謝しながら、私はその日の撮影を終えたのでした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。