時刻は23:12
まぁ、ちょっと過ぎてはいるけど
近くのコンビニで言われたものを買うだけだし…
一応声をかけるけど返事はない。
家を出てアパートの階段を降りると夜の静かさの中でギシギシと錆びた鉄が軋む音がする。
はぁ と息を吐くと白い雲が上がった
誰も通らない夜道を歩きながら
徒歩8分のコンビニへ向かう
いつものやる気のない店員
私の顔も年齢も何も気にしてないんだな
…それとももしかして私ってすごい老け顔?
いつものつまみを2,3個買っての帰り道
後ろから珍しく自転車のベルの音
振り返ると警官
この数日間私を悩ませた、あの人。
心臓がバクバクしてる
本当は補導の時点でいつもビクビクするんだけど
今日は違う意味で…
もしかして…
私のこと覚えてない…?
私はこんなに気にしてるのに、この人にとってはただの日常に過ぎなかったのかな
…って自己中にも程があるわがまま
淡々と調書を取る目の前の警官に
数日前、私に笑いかけてくれた面影は全く見つからなくて
ドキドキしてたはずの心臓が
今は異常なくらい静かになった
その代わり、少しだけ目頭が熱くなる
彼は私の持つ袋を指差した
素直に中を見せると眉を顰める
この口の悪さが少しだけ私を楽にさせた
気付いたらまた、もう1人の私が暴走した
自転車のペダルを踏もうとするお兄さんに、
咄嗟に話しかける
やっぱり…
ダメだ、顔から火が出るくらい恥ずかしい。
こんなこと聞くんじゃなかった
そこまで言って右手で前髪を触る
とかすフリして顔を隠したかったから。
早く帰ろうと体の向きを変えようとすると、白い手袋をはめた手が私の右手を掴んだ
ニコッと優しい笑顔は、まだ見たことないこの人の顔。
制服と相まって凄まじい威力ーーー
また私の心臓が音を立て始めた
くりくりの瞳に吸い込まれるように固まっていると、彼が口を開く
今度は私の知ってる、意地悪なあの笑顔。
これは…私…からかわれた?
やっぱり、絶対勘違い。
こんなやつにドキっとするなんてどうかしてる
私は、すぐに家の方向へと歩き出した
ゆるく自転車を漕ぎながら隣を走るその男。
余計なお世話!!
ほんっと信じられない…こんなのが警察?
私は無視を決め込んでずんずん進んだ。
その男は、結局アパートに着くまでゆっくり自転車を走らせていた。
一応…見届けてくれたのかな
手を挙げて笑ってから、ジャーっと夜道に消えていった。
行きはあんなに寒かったのに、今は汗をかくくらい顔が火照っている。
最後の笑顔が目に焼き付いて、また数日は忘れられそうにないーーー
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。