いつものように音楽室で先生の仕事姿を拝んでる。
私には一切目もくれないで仕事してるところとか、冷たいけど好き。
西日が差して先生の白い肌をオレンジ色に染めている。
睫毛の影が頬に映って、ほんと人形みたいに綺麗。
なんでみんなこの魅力に気付かないんだろ…?
気付かなくて丁度いいんだけどね。
そんなこと考えながらふと楽譜の山に目を向けると、バレンタイン特有の包みが目に入った。
私の声に驚いた先生が今日初めて顔を上げる。
視線の先を指差して訴える。
その言葉に一瞬安堵するけど、まだ完全には疑いを拭いきれない。
やっと脱力して、私は再び座り込んだ。
だって、もし先生が持ち帰ったら食べるかもしれないじゃん?
そんなの、耐えられない。
まぁ先生が誰から貰ったとしても、本来私にどうこう言う権利はないんだけどね…
また先程までのゆっくりとした時間が流れた。
先生との沈黙は全然苦じゃなくて、むしろ私を癒してくれる。
先生は、どう思ってるんだろう…?
たまに聞こえる仕事中のため息が、私には心地良い音楽のよう。
時計がカチカチと秒を刻んで、そろそろ帰る時間だと私を追い込んでいた。
今日が2月の14日だからとか、そんなのは全く関係なくて。
ただこの溢れる気持ちをどうにか言葉にしたいだけ。
チョコなんかなくても、私は自分の気持ちに正直にいれる。
1秒だけ顔を上げた先生と目が合った。
だけど私には世界が止まったくらいの時間に感じられる。
顔色一つ変えずにまた手元に目線を戻す先生。
やっぱり、今日も私の片想いだけど。
この返事だけでも、今日は最高の一日になる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!