とんでもない玉の輿に乗った友人に連れられ、会員制のシークレットクラブにやってきた。
映画にでも出てきそうな位、明らかに極秘ですって場所。
真っ暗な地下を歩き、見るからに強そうなガードマンが2人も立っている重厚な扉の中に入って行く。
一歩足を踏み入れた途端に目を疑った。
そこには夢のように煌びやかな世界が広がっている。
地鳴りのような音楽と共に、色とりどりの衣装に身を包んだ踊り子が空中に揺れる。
仮面をつけなければいけないドレスコードの理由がわかった気がした。
何でもありの、お金持ちの世界。
目を覆いたくなるような光景だって至る所で行われている。
帰りたいという恐れもある反面、もっとここを知りたいという好奇心もあるのが本音。
ざわざわとした広いフロアを抜けると、黒い壁に囲まれた一室に繋がっていた。
突き当たりまで伸びる真っ直ぐな花道の奥に、丸いダンスステージがある。
その周りを囲むように仮面をつけた老若男女がお酒を楽しみながら豪華なソファに座っていた。
私は引き寄せられるようにステージへと近付いていった。
中毒性のあるリズムとメロディが身体の奥にまで響いてくる。
一人分ほどの小さなステージで踊るのは……
…男の子?…男性?
今まで目に入ってきた踊り子の女性達とはまた違う、綺麗な容姿に鍛えられた筋肉美ーー
一際美しいその姿に、私は一瞬で心を奪われていた。
黒い闇の中に輝く一筋の光のように、彼は音に合わせて高く繊細に舞った。
最も盛り上がる瞬間が過ぎて、一曲終わってしまうと感じた頃。
ステージの後ろに用意されていたグラスを持った彼が、身体を回転させながら部屋中にその液体を撒いた。
ガラスのような光の粒がキラキラと光って私の元にも降ってくる。
天井に広げられたその液体はアルコールの香りを運びながら彼の演出のラストを彩った。
その魅惑的な光に包まれた彼は微かに微笑んでいたけど、酷く寂しい顔をしていたように見えた。
一瞬だけ、目が合った気がする。
白い肌に輝く髪。
柔らかい雰囲気とは正反対の刺すような鋭い瞳。
その時確かに私の呼吸が止まった。
やっと息をした私は、自分でも驚くような言葉を口にしていた。
その日、私は両親が残してくれた多額の財産を全て失った。
代わりに手に入れたのは、世界一美しい踊り子。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。