第29話

氷の壁が溶ける時ーJn
2,567
2021/01/23 00:14
you
先生、診察の時間ですよ?
Jn
うんー
カタカタと鳴っているのはパソコン。

昼休憩の時くらいゲームやっててもいいよね?

あっ、今いいとこなんだ
you
先生
Jn
ちょっと待って
あ、このステージ初めてじゃない?

ここ意外に難しいな…

Jn
…あっ!?
急に画面が暗くなる。

マウスに乗ってるのは看護師である君の綺麗な手。

だけど今はその手も僕の敵でしかない…
Jn
ちょっとぉぉぉぉ
いいとこだったのに…!!
you
いい加減にしてください!
もう10分も過ぎてるんですよ!?
患者さん待ってます!!!
すごい形相の君。

まぁ確かに…僕が悪いかな……
Jn
ごめんなさい
1人目の方呼んで…
顔を見なくても雰囲気で君が怒ってること位わかる。

随分長く一緒にやってきたから。

多分、どうしようもないやつと思われてるんだろうな…




最後の患者さんが終わって、1日が終わる。

必要な入力だけ終えたら、今日は早く帰って昼のゲームの続きがやりたい…
Jn
あなたさん、まだ帰らないの?
you
はい、私は仕事がありますので。
Jn
いつもありがとうございます…
you
お疲れ様です。
こうやって先に帰るのが、いつも少しだけ気まずい。

今度何かプレゼントでもしたほうがいいかな…

いやいや、職場の上司にもらうとか気持ち悪いか…?
Jn
あのさ…今度何か好きなものでも奢るよ
you
…それは、罪滅ぼしのつもりですか?
それとも自己満足ですか?
これが彼女の通常運転。

冷たいように見えて…

うん、すごく冷たいんだ。

でも仕事は完璧だし、何より全く干渉してこないのがいい。

たまにはそのガッチガチに固まった氷の壁の中を覗いてみたいと思うけど、信用されてない僕にはまず無理だ。
Jn
えっと…両方かなー?ははっ
you
でしたら、結構です。
Jn
じゃぁ、せめて君の好きな物でも教えてよ。
誕生日にプレゼントさせて?
you
それも結構です。
Jn
…やっぱ気持ち悪い?
you
いえ、そういうわけでは…
Jn
なら言われればちゃんと覚えておくよ。
記憶力はいい方だからさぁ!
甘い物とかお酒とか…何が好きなの?
少しの間沈黙が流れて、やっと彼女が僕の方を向く。
そして綺麗な形の口がゆっくりと開いた。
you
私が好きなのは、先生です。

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