玄関を入ると、いい匂いが俺を迎えた。
もこもこのスリッパを履いて、ネクタイを緩めながら廊下を通りキッチンに入っていく。
フライパンを覗き込む俺に、早く手洗って着替えてきてよなんて言うあなた。
言われた通りにすぐ退散した。
スウェットに着替えてキッチンに戻り、冷蔵庫にビールを取りに行く。
だけど辿り着く前に気付いたあなたがちゃんと取ってくれた。
テーブルにつき、プシュッといい音を出しながら缶を開ける。
グラスにうまく注いで一口飲んでから、目の前に並んでいる小鉢をつまんだ。
その間にメイン料理を運んできたあなたが向かい側に座る。
ご飯に集中していると、突然あなたの口から突拍子もない内容が飛び出す。
思わず固まってしまい持っていたおかずが箸から落ちた。
口からも溢れそうになって、思わず手で押さえる。
とか適当な相槌を打つけど、俺の頭の中はパニック状態。
え、なんで知ってんの?
笑いに持って行こうとするけど失敗した。
箸を進めるとじーっと正面から俺の顔を見つめるあなたの視線を感じた。
あなたがまた食べるのを開始して、お互いにモグモグと口を動かす。
嫁って…あいつらの?
すかさずあなたがスマホを取り出し画面を見せてきた。
食べながら目だけそちらに向けて確認すると、何故か嫁達のグループが作成されていた。
はぁ、とわざと心労が多そうなフリをしながらまた食べ始めたあなたを見て、つい笑ってしまう。
少しいたずらっぽく笑うあなたを見て、何故か突然俺はいい嫁を持ったななんて思う。
急に思ってもみなかった感想を聞かれ、口元が緩むあなたを見逃さない。
顔を見ながら問いかけると、少し笑いながらもちゃんと答えてくれる。
ここで俺は再び下を向いて食べ始めた。
俺の顔が赤くなってることに、多分あなたは気付いてる。
セミダブルに2人で入るのは、少しだけ狭い。
でもたまにはこういうのもいいと思う。
眠る直前、密着しながらあなたが可愛く聞いてくる。
真実を答えると、暗闇の中で不服そうな声。
素直にそう言う奥さんの頭にそっとキスを落とした。
俺たち夫婦のかわいい約束。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。