テーブルには空いた缶が既に2本。
いつも1本ほどしか飲まないはずなのに。
並んでいるうちから一本手に取り、軽く乾杯する。
グイッと飲み干すと少しぬるくなったビールが喉に流れ込んだ。
それを俺に聞くのは酷なことだと、きっと君は何も考えずに言った。
さっきまでの暗い表情とは一変、興味津々な顔をして俺を惑わせる。
目を合わさずに、二口目のビールを口に運んだ。
とりあえず言葉を濁して笑ってみる。
あなたは一人であの人かな、いやあの子か?なんて楽しそうに笑った。
面白そうに茶化す君に、少しだけムッときた。
奥手…そうなのかもしれない。
この気持ちを言葉で表現するとそうなるのか。
さっきからペースが早くなっていることは自分でもわかってる。
既にあと2口くらいで缶は空になりそうだ。
赤くなった顔でそんなこと聞いてくるあなたは本当に罪深い。
真っ直ぐに君を見て言う。
ぽかんと口を開けて俺を見てる君が、焦ったように早口で喋り出した。
自嘲気味に笑うと、うんうんと下手な応援をしてくる。
小さなテーブルに並んで座る俺とあなた。
可愛い手に俺の手をそっと重ねてみる。
ビールを真上に傾けて、残ってる分を全て飲み干した。
さすがに気付いたみたいで、鈍感で自分のことには不器用な君が困惑しだした。
困らせたい訳でもなかったんだけど。
さっきよりもずっと真っ赤な顔をした君が、眉を下げてこちらを見ている。
目の前のこの子に今すぐキスをしたいけど、やめておこうと思う。
奥手な俺の片想いは、結構真剣だから…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。