すぐ側で水が勢いよくぶちまけられる音がした。
だけど、ぎゅっと目をつぶる私の体を、冷たさが襲うことはなくて。
え…………?
おそるおそる目を開けると、目の前には…………。
私を水から守るように立ち、びしょ濡れになった與くんの姿があった。
先輩が、目を見開いて與くんを見ている。
それと同時に膝の力が抜けて、思わずその場に座り込んじゃう私。
見えるのは背中だけなのに、その背中がビリビリと怒気を放っている。
そして怒っているってわかる、いつもより低い與くんの声。
先輩が肩を震わせながら、大声で叫ぶ。
先輩に指を差され、憎しみを全てぶつけられたようで思わずびくっと肩が揺れる。
だけど、その先輩の怒りを遮る與くんの声。
そう呟いて、キッと鋭い眼光を先輩に向ける與くん。
───ドキンッ。
そんな状況じゃない事は分かっているのに…………。
どうしてだろう。
與くんにドキドキしてる、私…………。
先輩はそう叫ぶように言うと、走り去ってしまった。
先輩の姿が見えなくなると、與くんが振り返って、まだ立てないでいる私の前にしゃがみ込んだ。
言われて初めて気づいた。
いつの間にか、涙が溢れていた事に…………。
與くんがニコッと優しい笑顔を見せて、私の頬を伝う涙を親指でそっと拭う。
その笑顔にツンと鼻の奥が痛くなって、また涙が溢れ出す。
だけどね、涙が止まらないのは、怖かったからじゃないよ。
與くんが私をかばってくれたからだよ……。
助けてって、そう願ったら本当に来てくれたんだもん。
だけど、私をかばったせいで、與くんがびしょ濡れになっちゃった。
與くんが優しい微笑みを浮かべる。
まるで、安心させてくれているみたいに…………。
だけど、水はぼたぼたと止めどなく、與くんの髪から滴り落ちている。
4月もまだ半ば過ぎ。
時々吹く風はまだまだ冷たくて。
こんなに濡れていたら、與くんの体が冷えちゃう。
そう言って與くんは笑うけど、ぜったい風邪引いちゃうもん。
私はぶんぶんと首を横に振って、與くんの手を引いて保健室に向かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。