私は與くんの手を握った。
……ほら、やっぱり。
與くんの手は冷たくなんかない。
安心するくらい温かかったんだ。
初めて男の子と手を繋いだというのに、ドキドキしたり、体が火照ったりしないのはなんでだろう?
緊張なんかよりも、心が安心するんだ。
やっぱり與くんって不思議だな……。
私たちはそのまましばらく歩いて、カフェやショップなどのおしゃれなお店が軒を連ねる一角まで来ていた。
学校の近くに、こんなにオシャレなとこがあったなんて知らなかった!
みさちゃんにも教えてあげたいな!
そんなことを考えながらキョロキョロあたりを見回していると、與くんが少し離れたとこにあるカフェを指さした。
その瞬間私の目は多分、最大級に輝いていたと思う。
なんてったって、シュークリームが大好物なんだもん!
手をバタバタさせて、上がりまくるテンションを抑えられないでいると、與くんがくすりと笑った。
───カランカラン。
カフェのドアを開けると、扉に付けられていたベルの音が店内に鳴り響いた。
カフェの中は、数多くのアンティーク雑貨が置かれ、可愛らしくそれでいてオシャレで、甘い香りが漂っている。
可愛いエプロンを着て帽子を被った店員さんが店の奥から出てきた
店内は混んでいて、店員さんに案内されてすわったのは、たったひとつ空いていた店の一番奥の席。
與くんがシュークリームが美味しいと言っていただけあって、スイーツ好きの若い人や女性に人気があるのか、学校帰りの高校生や女子大生らしき人の姿に目がつく。
席に着くなり、テーブルに置かれた、カスタードクリームがとろーりはみ出ているシュークリームのメニュー写真に釘付けになる私。
そう言って苦笑する與くん。
だって、すごーくシュークリームが好きなんだもん!
與くんはそう言ってるけど、もしかしたら甘いものが苦手なのかもしれない。
だってこのお店で甘くないの、コーヒーだけだもん。
その事に気づくと、急に申し訳ない気持ちになる。
私の異変に察知したのか、與くんの優しい声が聞こえてきた。
私ばっかりいい思いさせてもらって、なんだか申し訳ないよ……。
自己嫌悪に陥りうつむく私の頭に、何かが当たった。
え…………?
そしてそのまま、頭をぐしゃぐしゃーっとなでられる。
そろりと頭をあげると、與くんの手が私の頭へと伸びていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!