第3話

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2020/10/01 01:35
親友に戻れないと思っているのは俺だけかもしれなかった。いや、太我はもしかしたら今でも俺たちは親友だと思っているかもしれない。考えたくはないけど、そもそも最初から親友だとは思われていないかも。太我は友だちが多いから、俺のように友人が少ない奴とはお互いへの認識が違うかもしれない。

昨日は結局一晩中ゲームをして、太我の家を出た。
いつもそうだけど、俺とは対照的に、太我は何も気にしていないふうに玄関で俺の帰りを見送る。
太我
太我
じゃね〜
そう言っていつも通りの顔で俺を送り出す。太我は今の関係をなんとも思っていないのだろうか。俺が考えすぎなのだろうか。俺が一人悶々としていることを表に出さないように、太我も裏では悩んでいるかもしれない。

家に着き、なんとなしに携帯を開く。画像フォルダを見返すと、昔は太我との写真ばっかりだけど、最近はそうでないものの方が多かった。俺もなんだかんだで友だちは増えた(それでも太我や達也くんと比べたら全然少ないが)。達也くんとも結成当初より仲良くなった。いいことだけど、なんとなく寂しくなる。

太我は俺の親友というだけでなく、仕事仲間であり、バンドメンバーであり、そして前組んでいたバンドから俺を連れ出してくれた恩人でもある。
以前太我が「はるの運命変えたのは俺だ」と言っていた。自分で言うなと思ったが、ほんとにその通りだとも思った。
俺だって太我以外にも親友と呼べるくらい仲がいいやつはたくさんいる。だけど、太我は俺の中では特別だった。
だから、セフレになって、セックスのためにお互いの家に行くようになって、ただ遊ぶために会うことはなくなって、親友とは呼べなくなってしまっても、太我は大切だった。
太我と離れることは、俺の中では恐ろしいことだった。
晴人
晴人
彼女ができたらさ、
以前そういう話になったことがある。
晴人
晴人
俺らはセフレ解消?
太我
太我
そりゃそうだろ、何が悲しくて男とヤり続けなきゃいけねぇんだよ
太我は表情を変えずに本当に当たり前だというようにそう答えた。
太我
太我
お前だっていつまでも突っ込まれたくないだろ
晴人
晴人
まあ、そりゃね
太我
太我
もしかしてクセになっちゃった?
晴人
晴人
殺すぞ
あくまでふざけた声音を意識したが、俺にとっては冗談ではすまされない問題だった。
ここまで後ろを開発された俺は、女の子とできるだろうか。いや、できるだろうけど、入れる側で満足できるだろうか。
女の子は男の何倍もセックスが気持ちいらしい。男も、後ろを慣らせば、入れるより入れられる方が気持ちいらしい。
これが嘘かどうかなんてどうでもいい、実際女の子とヤってみなければ満足できるかできないかなんてわからない。俺にとっては「女側じゃないと満足できないかもしれない」ということが重要で、恐怖だった。
太我は彼女ができたら、俺との関係を解消してもなんの問題もないだろう。だけど俺は?太我に彼女ができて、太我が俺とヤってくれなくなったら、誰が俺を気持ちよくしてくれるの?

何より、太我に彼女ができてしまったら、この関係が終わってしまったら、今の俺たちにはもう何も残らない…

太我と離れたくない俺にとって、太我との関係が仕事だけになるのはとても怖かった。

以前は、親友という絆でつながっていた。
今は、セフレという絆が俺たちをつないでいる。

セフレじゃなくなったら、何が俺たちをつないでくれるの?また親友に戻れるの?とてもそうは思えない、きっと終わり。俺たちはただの仕事仲間になるに違いない。
晴人
晴人
やだよ…
こんなこと、太我は考えてないだろう。

俺だけが、一人で思いつめているんだ。俺だけがこんなに太我のことが大切なんだ。

そう考えると、苦しくて仕方なかった。

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