いつも通りのやり取りのあと太我がうちに来て、いつも通りベッドに押し倒された。
ただ今日は、いつもと違ってすぐにセックスが始まるわけではなかった。
太我は俺を見下ろし、あのさ、と話し始めた。
なんでそんな話になるの。
意味わからなすぎてなんでとも聞けない。
そんな俺をよそに、太我は話し続ける。
そうかもしれない。だって俺はずっと、最近は余計に、この関係が苦しいから。
太我は、おれに彼女ができそうだから、俺が太我を誘わなくなったと勘違いしているらしかった。バカみたいな勘違いだ。
太我は何か迷っているらしかった。瞳がゆらゆら揺れている。その中に俺が映っていた。俺はなぜか、この先の言葉を聞きたくないと思った。
何も言葉がでなかった。
最近誘われなかったし、ハルにも彼女ができたのかと思った。だからお互い後腐れなくこの関係を終わらせられると思った。でもハル彼女できてなかったんだ、ごめんね。
太我の言葉が降ってくる。
俺は死刑宣告でも受けた気分だった。
心臓が重い。胸から何かが込み上げてくる。言葉が喉に詰まって何も言えない。
いつのまにそんなにいい子が見つかったの?
なんでこんなにいきなりなの。
なんで彼女ができたのにここに来たの。
なんで…
絞り出せたのはその一言だけだった。太我はなぜか悲しそうな顔をした。俺がそう思いたかっただけかもしれない。
セックスの最中、いろんなことがぐるぐる頭の中を巡った。
俺たちは親友に戻れるかな。
気まずくなったりしないかな。
もう抱いてもらえないのかな。
一緒にいる時間減っちゃうのかな。
その子のどこが良くて付き合ったのかな。
俺はなんでこんなこと考えてるのかな。
太我に、中に出してほしいと言った。なんでかはわからない。
終わったあと、2人で毛布にくるまった。もう同じベッドで寝るのも最後だね。あぁなんでこんな女々しいことばっかり考えちゃうんだろう。
そのまま朝が来て、太我は帰る準備を始めた。俺は布団の中からただそれを見ていた。
いつもだったら、事後の会話があるはずなのに今日は何もなかった。本当にこれで終わりなんだね。太我には彼女ができたんだもん。もう俺はいらないんだね。
熱を心配されたことを思い出した。俺が着てほしいと言った服を買っていたことも、俺の手を引いて歩く背中も思い出した。
自分の気持ちなんてほんとはとっくにわかっていた。
一瞬、太我の肩が震えた。
一度言ってしまったらもう止まらなかった。
ベッドから出て、太我の背中に抱きついた。
太我が困ってる。それでも止められない。
振り払われて、しりもちをついた。
そんなに嫌なの?
セックスだってしたのに、そんなに俺に好かれると困るの?
涙がぼろぼろこぼれた。
情けないと思って必死に目を擦ったけど、拭っても拭っても溢れてきた。
太我の顔を見るのが怖くて俯いた。
太我はもう一度「ごめん」と呟いて、それ以上何も言わないで帰った。
俺がどれだけ好きと言っても待ってと言っても、振り返ってもくれなかった。
わかっていた。受け入れられることはないって。
きっと、もう親友にすら戻れない。俺がこの気持ちを我慢していたら、せめて元通りの関係のままいられたかもしれないのに。俺が全部壊した。きっと気持ち悪いって思われた。嫌われた。
悲しくてどうしようもなくて、いつまでも泣いていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!