第15話

15(太我side)
625
2021/02/20 08:30
悶々としていたらあっという間に2月20日になった。
前日約束した通りハルの家へ向かう。「一日俺の家で過ごしたい」と言われたときはどうしようかと思ったが、俺の考えを見透かしたかのように、ハルは苦笑しながらこう言った。
晴人
晴人
別にセックスしろとか言わないから大丈夫だよ…さすがに彼女さんに申し訳ないし
男同士、本物の恋人でもないのに、街中でくっつかれたら太我恥ずかしいでしょ?それだけだよ。

ハルの言葉を、俺は肯定も否定もしなかった。こんなに卑屈でうじうじしているハルは、普段のイメージからは全くかけ離れていた。本来ハルは、マイペースで物事をあまり深く考えないポジティブな人間だ。だけど俺に告白してから、ハルはこっちが申し訳なくなるほど沈んでいる。
あの暗い表情を思い出していたらハルの家についていた。少しためらってからインターホンを押す。
晴人
晴人
太我!
すぐにハルが玄関から出てきた。
その表情が、予想していたよりも以前の明るいハルに近くて驚いた。
太我
太我
ハル、誕生日おめでとう。これプレゼント…
晴人
晴人
ありがと。ね、早く入って!
俺の腕をぐいぐい引くハルに気圧されつつ中に入る。久しぶりにハルの部屋に入った。以前は毎週のように来ていたのにと、なんだか懐かしい気分になった。
太我
太我
今日って何すんの?ゲーム?
晴人
晴人
んん、映画見よ…太我、座って
言われるがままにソファに座る。
ハルはプレゼントを開けもしないでテーブルに置き、なぜか急ぐように俺の隣に座った。肩と肩がくっつくくらい近かった。ハルは俺の左腕に自分の右腕を絡め、手を恋人繋ぎにし、俺の肩に頭をもたれさせた。
完全に恋人のようだった。ハルは満足したようにふうとため息をついて、俺の手をいじり出した。
太我
太我
ハル…映画見ないの…?
晴人
晴人
ん〜?やっぱいいや…
こいつ最初から映画見る気なんてなかったんだろうな。
ハルは俺の指で遊びながら笑った。
晴人
晴人
俺、ずっとこうしたかった
太我
太我
………そう
晴人
晴人
迷惑ばっかりかけてごめんね。今日で吹っ切れるようにするから
太我
太我
………
晴人
晴人
だから今日くらいは俺、恋人っぽくしたい。できてるかな
だから今日のハルは明るいのだろうか。恋人らしくしたくて、ムリに明るく振る舞っているということだろうか。
太我
太我
なんでそこまで…
晴人
晴人
え?
太我
太我
ずっとわかんなかった…なんで…俺が好きなの…
晴人
晴人
………
ハルは驚いて俺を見上げた。ハルのクリクリした目に俺が映っていて、俺はとっさに目を逸らしてしまった。
晴人
晴人
そんなの知らない、でも好きって気づいちゃったんだもん
太我
太我
…なんで俺なんか……
晴人
晴人
ずっと一緒にいたからかなぁ?俺、こんなに好きになったの太我が初めてかも
太我
太我
………
晴人
晴人
もし俺が女の子だったら、太我と付き合えたのかな
太我
太我
晴人
晴人
俺が女の子だったら選んでもらえたのかな
ハルはずっと俺を見つめていた。俺はハルの顔を見られなかった。
俺だってハルが女の子だったらって考えた。ハルが…

でも何度想像しても俺の隣にいるのは、今の彼女でも女の子のハルでもなくて、今俺の手を握っている男のハルだ。

わかってる。吹っ切れなきゃいけないのは俺だって同じだ。ずっとハルが好きだ。一日付き合うのを断らなかったのだってほんとは自分のためだ。ハルのためでもバンドのためでもない、俺がハルと付き合いたかったからだ。
隣に座るハルを見る。抱きしめたいと思った。それはハルに対しても彼女に対しても裏切りになる気がした。
太我
太我
……最低
晴人
晴人
わかってるよ
太我
太我
お前のことじゃねえよ
ハルは不思議そうな顔をした。ハルはほんとに今日で吹っ切れるんだろうか。俺はどうだろうか。

俺たちはそれ以上何も話さなかった。ただずっと手を握り続けて、夕方、ハルの家を出た。

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