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兄とテーブルを挟んで睨み合った。
こんな形であたしの気持ちを聞くことになるとは思わなかったのか、兄はポカンと口を半開きにしたまま
あたしを見つめている。
真剣な表情に響の瞳に映るのはどんな未来なのだろう。
あたしが自分のことを嘘をつかずにリスナーに伝えられる日が来るはずない。
そう思っていた。
けれど、響は、あたしがあたしのままでステージに立てる日がやってくると信じている。
嘘偽りなく、みんなが受け入れるそんな時代がくるのだと。
そんな響の言葉を受けて、ぎゅっと拳を握った。
椅子から降りて、膝を折り床に手をついた。
しばしの静寂の中、お兄ちゃんの深いため息が頭上から聞こえた。
肩の上に、手のひらが乗る。
顔をあげると、目の前に片膝をついた兄がいた。
困ったように眉を下げてこちらへと顔を向けている。
兄へと飛びつくと、兄は突然ボロボロと泣き出した。
わんわんと泣きじゃくる兄に、力一杯抱きしめられる。
2人きりしかいない兄妹だ。これからは連絡をしよう。と心に固く誓った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。