第311話

311 (S2) *サプライズ07
270
2023/01/18 15:00


兄とテーブルを挟んで睨み合った。

こんな形であたしの気持ちを聞くことになるとは思わなかったのか、兄はポカンと口を半開きにしたまま

あたしを見つめている。

水石 響(ひーちゃん)
水石 響(ひーちゃん)
俺の話をしてもいいですか?
俺はこの声のせいで、今まで色んなことを言われてきました。
男らしくないとか、声を加工してるんじゃないかとか、本当は女性なんだろう、とか、
衣装も、どうしてスカートを履いて踊らないんだ? とか、色々……。
ジェンダーを馬鹿にする声を荒げられたことが、何度もあります
お兄ちゃん
お兄ちゃん
……
水石 響(ひーちゃん)
水石 響(ひーちゃん)
だから、彼女には、俺と同じ思いをしてほしくありません
お兄ちゃん
お兄ちゃん
だったら、男性アイドルグループを辞めるように説得するべきなんじゃないか?
水石 響(ひーちゃん)
水石 響(ひーちゃん)
それは彼女に夢を諦めろ、と言え。ということですか?
お兄ちゃん
お兄ちゃん
……う。それは……
水石 響(ひーちゃん)
水石 響(ひーちゃん)
時代は、変わると思います。
男性も女性も関係なくなって、新しいアイドルのスタイルがくる。
どんな形のカナデであっても、世間が受け入れるようになる。
そんな時代が来る。そう信じています
水石 響(ひーちゃん)
水石 響(ひーちゃん)
今はまだそういう時代ではない。
けれどいつか、必ずそうなります。いえ、俺たちスイーツプリンスが、
どんなカナデであっても受け入れられる。そんな場所を作ります
Kanade
Kanade
響……。
真剣な表情に響の瞳に映るのはどんな未来なのだろう。

あたしが自分のことを嘘をつかずにリスナーに伝えられる日が来るはずない。

そう思っていた。

けれど、響は、あたしがあたしのままでステージに立てる日がやってくると信じている。

嘘偽りなく、みんなが受け入れるそんな時代がくるのだと。

そんな響の言葉を受けて、ぎゅっと拳を握った。


椅子から降りて、膝を折り床に手をついた。
Kanade
Kanade
お兄ちゃん。きっと今はわかってもらえないと思う。
けれど、あたしはここで頑張るって決めたんだ。
響とスイプリのメンバーみんなとで、最高のアイドルになるって決めた。
だから、今は見守っていてほしい
お兄ちゃん
お兄ちゃん
……
しばしの静寂の中、お兄ちゃんの深いため息が頭上から聞こえた。

肩の上に、手のひらが乗る。

お兄ちゃん
お兄ちゃん
頭を上げなさい花奏。
わかったから。ほら
顔をあげると、目の前に片膝をついた兄がいた。

困ったように眉を下げてこちらへと顔を向けている。

Kanade
Kanade
じゃあ、スイプリ続けていいの?
お兄ちゃん
お兄ちゃん
妹の夢を奪う兄が、どこにいる?
Kanade
Kanade
お兄ちゃんん!!!
兄へと飛びつくと、兄は突然ボロボロと泣き出した。

お兄ちゃん
お兄ちゃん
ずっと、ずっと連絡が来なくて、どれだけ心配したと思ってるんだぁああ!
お兄ちゃんだって、寂しいんだからなああああ!!
わんわんと泣きじゃくる兄に、力一杯抱きしめられる。

2人きりしかいない兄妹だ。これからは連絡をしよう。と心に固く誓った。

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