前の話
一覧へ
次の話

第12話

アンフィトリテの涙(6)
743
2019/04/06 09:01
私の記憶・・・・” は正しかった!

なぜなら、あれから迷うことなく、
吹き抜け前に着けたからなのである!!

ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
……ほら、ちゃんと
吹き抜けに来れただろっ!
ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
ほんとだ……


吹き抜けは、すごく明るかった。




ただし
まだ電気は停電中。

あたりを照らしているのは
電気の照明じゃなく、月明かり。



吹き抜けに面してる
大きな大きなガラス窓から、
お月様の優しい光が
目一杯差し込んでいるんだよね。



ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
あんた実はやっぱり
ルート覚えてたんじゃ――
警察官
いたぞっ!!
早く捕まえろッ!!
ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
うわっ?!
吹き抜け越しに下を見たところ

ちょうど1階のところに
大量の警察官が押し寄せているのに気づいた!

ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
あらあら、
カゲトラが言ってた応援部隊、
到着しちゃったみたいね
ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
で、こっから
どうやって脱出すんの?!
ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
行きとおんなじ♥
ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
同じ?!
ま、まさか……
イヤな感じが
ゾワッとよみがえったと思った瞬間。
ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
 ?!

ロゼリィが私を片手で抱き上げた?!
ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
ふんっ!

さらに彼女は左腕の
腕輪型無限伸縮鎖インフィニティチェーンの端の金具部分を
吹き抜け窓の窓枠の上側めがけて投げつけた。


……おっと、どうやら
金具がキレイに引っかかったみたい。

ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
……よぉしっ!

チェーンをくいくいっと引っ張り、

無事に窓枠上部に引っかかったのを
確認したらしいロゼリィは、嬉しそうに笑う。

ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
じゃノイジィ、
歯を食いしばれー、
しっかりつかまれー、
危ないから頭をせてろー


私……この流れ、知ってる。


しかもチェーン
こうやってセットしたということは、

さっきと違って……。


ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
それっ♪
ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
?!?!?!

ロゼリィが私を抱えたまま、
吹き抜けに面した7階の手すりから、
飛び降りたっ?!?!
ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
あ~ああ~~~♪


楽しそうに雄叫おたけ
あげてる場合かよぉぉォーーーーーッ!!!





 バリィィィンッッ!!





勢いよく斜めに滑空したロゼリィは、
ガラスの大窓にそのまま足から衝突し、
豪快に割り抜き、
そして私たちはその勢いのまま
デパートの外へと飛び出した!!

体がふわっと浮く感じがして、
まぁるいお月様が大きく見えた瞬間。


もうダメだ・・・・・


そう思った私は覚悟を決め、
静かにまぶたを閉じた。








 お母さん、ごめんなさい。




 たった15年の短い人生だった。


 やりたいこともいっぱいあった。

 食べてみたいものだってまだまだあった。




 ……そういえばこの仕事の報酬、 
 おいしいしぼりたて牛乳&乳製品だったっけ。


 じゅる……。


 ……人生が終わる前に、
 せめてそれぐらい
 食べておきたかったなぁ……。








…………。








……って……あれ??




そのうち襲って来るとばかり思っていた
”急降下感” が、
いつまで経っても全然やって来ない。




不思議に思った私が、
ぎゅぎゅっとつむっていた目を
おそるおそる開けてみると……。


ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
…………?

私とロゼリィは、空中に浮かんでいた。


ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
これ……今……
……どういう状況なの??
ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
そうねぇ

上を見たらわかると思うわ♥
ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
上?


言われるがまま、
目線を上のほうへとゆっくりスライドしていく。





右手で私を抱えているロゼリィ。

ロゼリィの左手がつかんでいるのは……




……ん? 縄梯子なわばしご……だよね?




縄梯子なわばしごは真っ直ぐ上に伸びていて、

その先にあるのは、
行きに乗ってきた飛行機・影虎丸かげとらまる弐号にごう



ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
もしかして……!
ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
ええ、そうよ
ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
お察しの通り、
ぴったりのタイミングを見計らって
カゲトラが迎えに来てくれたの!
ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
よかった……


私……てっきり……
てっきり……

……もう、ダメだとばかり……
ロゼリィ(皇太郎)
ロゼリィ(皇太郎)
ほぉら、
そういうのはあとあと

とりあえず影虎丸かげとらまるの中に
入っちゃいましょ!
ノイジィ(サト)
ノイジィ(サト)
……うん



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




王子に支えてもらいつつ、
空中の縄梯子なわばしごを上って飛行機の中へ。




あったかい紅茶を入れてもらって、
少しずつ飲んでるうちに、
だんだん気分も落ち着いてきた。




誰もしゃべろうとしないから
機内はしーんと静まり返っていた。

この沈黙を破っていいかどうか
ほんのちょっと迷ったけれど、
思い切って王子に話しかけてみる。


サト
サト
……あのさ
皇太郎
皇太郎
なんだ?
サト
サト
……紅茶、ありがと
皇太郎
皇太郎
そういうのは面影に言え

もともと紅茶を用意したのは面影、
俺はポットからコップに注いだだけだ
サト
サト
……うん
サト
サト
面影さんも
ありがとうございました
面影
面影
お役に立てて何よりでござる

時計塔まではまだ少々かかるゆえ、
それまでどうぞごゆるりと!
サト
サト
はい!
皇太郎
皇太郎
……それにしてもお前、
実はやっぱり覚えてたんだな
サト
サト
何の話?
皇太郎
皇太郎
とぼけんじゃねぇ、
脱出ルートの話だよ!
皇太郎
皇太郎
催事場のターゲットポイントから
吹き抜けに着くまで、
迷うことなく走り抜けてただろ?

どう考えてもあれは
下見で訪れた際の道順を
しっかり記憶していたとしか
思えねぇじゃねぇか!
サト
サト
え、ちがうよ?

本当に私、
道なんて全然覚えてなかったし
皇太郎
皇太郎
嘘つけ!

覚えてねぇなら
どうやって吹き抜けに
たどり着いたって言うんだよ
サト
サト
えっとね、
下見に行った時に食べたでしょ?

“さくらんぼタルト”
皇太郎
皇太郎
は?
それがどうした?
サト
サト
さっき
「道わかんなくてどうしよう」
ってなった時、
さくらんぼタルトの匂いが
するのに気づいたの!

ほら、タルト食べたカフェって
吹き抜けの横にあったじゃない?

だからね、
「この匂いをたどっていったら
 吹き抜けの横につくぞ!」
ってピンときたんだ!
皇太郎
皇太郎
なんだと?!
まさかそれ本気で言ってんのか?
サト
サト
本当だよ!

だってあんなにおいしい匂い、
私が忘れるわけないじゃん!!
皇太郎
皇太郎
…………
皇太郎
皇太郎
フッ……
……フハハハハハ!
サト
サト
ちょ、ちょっと王子!

私、ものすっごーく真面目に
答えてるんだけど?
皇太郎
皇太郎
わかってるさ!
だから可笑おかしいんだろうが!

絶体絶命のピンチを切り抜けた鍵が
よりにもよってもんのニオイだぞ?

間抜けにも程があるだろがっての!
アハハハハ!


なにそれ、意味わかんない。
私、すっごく真面目にがんばったのに……。


……そこまで大爆笑しなくたっていいじゃん。

皇太郎
皇太郎
……まぁとにかく
お前はよくやってくれたよ!

おかげで計画通り……
目的の物・・・・も入手できたわけだしな
サト
サト
あっ、
アンフィトリテの涙!
皇太郎
皇太郎
これは俺と面影が責任を持って
元の持ち主に返しておくぜ……
皇太郎
皇太郎
……色んな意味で・・・・・・、な



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



このあと、
SNSでもTVのニュースでも

桜谷さくらだに百貨店の窓を蹴破って
縄梯子なわばしご&飛行機でさっそうと逃げる
“怪盗姫の後継者” の映像が、
おそろしいまでの勢いで拡散しまくった。




ニュースを見ててほっとしたことの1つが
“あの事件ではケガ人が誰も出なかった”
って報道されてたこと。

そういう報道がされてるなら
王子が気絶させちゃった
警察の円護寺えんごじさんも
たぶんケガまではしてなかったんだろうな……

…ほんとによかった。
あの人、悪い人じゃなさそうだったし。



でも冷静になってから考えてみたら、
特に最後、
あれだけ人が集まってる所で
大きな窓ガラス割ったのに、
ガラスの破片とかで
よく誰もケガしなかったよなって
不思議に思ったんだ。


調べてみたところ、
なんでもあの吹き抜けの窓ガラス、
ちょっと特殊な素材のガラスで
割っても飛び散りにくい構造らしい。

そのこと王子に報告したら
「そんなもん割る前から把握してる」
だって!

それならそうと
先に言ってくれてもいいと思わない?




……あ、そう!


ちなみに私のことも
“怪盗姫の仲間の少年怪盗” として
すごく話題になっていたんだ。

一応自分のことだし、
いろんなネットニュースとか
まとめサイトとかのぞいてみたけど、
誰ひとりとして
「怪盗姫が男で、少年怪盗が女だ」
って言ってる人がいなかったんだよね。



それって変装がカンペキすぎて、
正体が全然バレてないってことだから
安心すべきなんだろうけどさ、

「私やっぱ “小学生” に、
 しかも “小学生男子” に見えちゃうのか」
って考えると、

乙女心を持つ女子高生としては
ちょっとばかり切ないよね……。


……あーあ、
年相応に見られたいもんだぜ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



改めて後日、
王子に呼び出された私は、
時計塔の秘密部屋へと来ていた。

サト
サト
そういやニュース観て
びっくりしたんだけどさ、

事件のあとすぐ、
桜谷さくらだに百貨店のオーナーが
逮捕されたんだってね
皇太郎
皇太郎
桜谷さくらだにガンゾウか

アンフィトリテの涙をだまし取った
詐欺事件だけじゃなく、
あいつは他にも
裏で色々やらかしまくってるからな、
当然っちゃ当然だろ
サト
サト
でも王子、
下見の時に言ってたじゃん

オーナーはクセ者・・・で、
警察に言っても
もみ消されちゃうだけだって
皇太郎
皇太郎
それも嘘じゃねぇよ

あの桜谷さくらだにって男が
金やコネに物を言わせて
様々な事件をもみ消してきたのは
まぎれもねぇ事実だ
皇太郎
皇太郎
だが今回はそうもいかねぇ

なんたってマスコミに、
あんなに決定的な悪事の証拠・・・・・・・・・・・・・
スッパ抜かれちまったからな……

そりゃ世論の集中攻撃も浴びる上、
頼りにしてたコネども・・・・全員
手のひらを返して敵に回るさ!


もちろん警察やなんやも
全ての証拠を把握済みだし、

誰も味方がいないとなれば……
皇太郎
皇太郎
……もう、金だけじゃ
どうしようもねぇよなぁ……
サト
サト
…………
王子ってば、
ものすごい悪人顔になってるんだけど……。
サト
サト
……王子、なんかやった?
皇太郎
皇太郎
大したことじゃねぇよ

あらかじめこちらが握ってた
桜谷さくらだにガンゾウの悪事を
立証する完璧な証拠” ってやつをな、

この間の事件の直後に
警察やマスコミや関係者に送ったり
SNSや動画サイトで拡散したりを
匿名でやったってだけさ
サト
サト
じゃあやっぱり
オーナーが逮捕されたのって……
皇太郎
皇太郎
うむ、間接的には
俺と面影の仕業しわざ

やっぱなんとなく
そうじゃないかとは思ってたよ……。




……おや?

サト
サト
ちょっと不思議なんだけど、

“カンペキな悪事の証拠” ってやつを
持ってたんなら、

その証拠だけで充分に
オーナーを追い込めたわけだよね?
皇太郎
皇太郎
おう、そうだな
サト
サト
だったら別にわざわざ
怪盗をやる必要なかったんじゃない?

あんな大変な思いしなくたって
証拠を使えば
オーナーをどうにかできたんだから、

やりようによっちゃ
アンフィトリテの涙だって
取り戻せたんじゃ――
皇太郎
皇太郎
アホか、
それじゃ意味ねぇんだよ!

確かに目的のひとつは
アンフィトリテの涙を
元の持ち主に戻す事だったがな、

それはあくまでただのオマケ!
皇太郎
皇太郎
最大の目的は、
“俺が母に再会する事” なんだぞ?

怪盗姫の出番がなくなったら
そっちの目的に
関係なくなっちまうだろうが!
サト
サト
あ、そっか
それを忘れてた……

王子の願いは、
先代怪盗姫であるお母さんに
再会するための手がかりをつかむこと。




今のところはまた王子のお母さんから
連絡らしきものは来てないみたい。

だけど、怪盗姫のことを知ってそうな
円護寺えんごじさんにも会ったわけだし……。



……案外そのあたりから、
重要な手掛かりがつかめちゃったりしてね!


皇太郎
皇太郎
ったく……
相変わらずバカだな
サト
サト
うっ?!
ただ忘れてただけだし
皇太郎
皇太郎
バカだから忘れるんだよ
まったくお前のバカっぷりと来たら
救いようがねぇひどさだぜ
サト
サト
ちょ、ちょっと!
そんな言い方しなくても――


 カチャ


面影
面影
大変お待たせいたしました、
準備が整ってございます
ドアが開き、
隣の部屋から出てきた面影さん。


面影さんが押しているワゴンの上には……。
サト
サト
ふぁっ!
それってもしかして!!
皇太郎
皇太郎
その通りだ!
皇太郎
皇太郎
面影、簡単にでいいから
メニューについて説明してやれ
面影
面影
承知いたしました
面影
面影
まずは、綾小路家の直営牧場にて
今朝しぼったばかりの牛乳の中から
“最も品質が良いもののみ” を
坊ちゃまが厳選なさった
搾りたて牛乳および、
その牛乳を加工した風味豊かな乳製品
サト
サト
待ってましたっ!!
面影
面影
さらにその乳製品を
世界大会での受賞歴もある
日本有数のパティシエやシェフに
調理していただいた
最高級の料理や
スイーツの数々もございます
サト
サト
ふおぉぉおォっ!!!

いただきまぁ――
皇太郎
皇太郎
あ、ちょっと待て!
食べ始める前に話がある
サト
サト
え~~、
早く食べたいんだけど……
皇太郎
皇太郎
手短てみじかに済ませるさ
サト
サト
……わかったよ
サト
サト
で、なに?


一瞬ためらうような表情になる王子。



それを振り払うかのように
コホンと咳払せきばらいをしたかと思うと、
ゆっくりしゃべりはじめた。


皇太郎
皇太郎
こ……今回の件が成功したのは
正直なところ、
お前のおかげである部分も
大きいんじゃねぇかと考えている
皇太郎
皇太郎
仮にもし
俺だけで現場に突入していたら

あの “円護寺えんごじユウゴ” とかいう
警察官につかまっちまった時点で
終わっていたかもしれねぇし……

その……
皇太郎
皇太郎
……ありがとうな
サト
サト
…………
サト
サト
王子がそんなこと言うなんて
めずらしくない?
皇太郎
皇太郎
うるせぇ!

だ、だから、その……
皇太郎
皇太郎
まぁ……あれだ……
皇太郎
皇太郎
……次回も
よろしく頼むぞ、共犯者!
サト
サト
…………
サト
サト
おうっ!
まかせとけ!

プリ小説オーディオドラマ