“私の記憶” は正しかった!
なぜなら、あれから迷うことなく、
吹き抜け前に着けたからなのである!!
吹き抜けは、すごく明るかった。
ただし
まだ電気は停電中。
あたりを照らしているのは
電気の照明じゃなく、月明かり。
吹き抜けに面してる
大きな大きなガラス窓から、
お月様の優しい光が
目一杯差し込んでいるんだよね。
吹き抜け越しに下を見たところ
ちょうど1階のところに
大量の警察官が押し寄せているのに気づいた!
イヤな感じが
ゾワッとよみがえったと思った瞬間。
ロゼリィが私を片手で抱き上げた?!
さらに彼女は左腕の
腕輪型無限伸縮鎖の端の金具部分を
吹き抜け窓の窓枠の上側めがけて投げつけた。
……おっと、どうやら
金具がキレイに引っかかったみたい。
鎖をくいくいっと引っ張り、
無事に窓枠上部に引っかかったのを
確認したらしいロゼリィは、嬉しそうに笑う。
私……この流れ、知ってる。
しかも鎖を
こうやってセットしたということは、
さっきと違って……。
ロゼリィが私を抱えたまま、
吹き抜けに面した7階の手すりから、
飛び降りたっ?!?!
楽しそうに雄叫び
あげてる場合かよぉぉォーーーーーッ!!!
バリィィィンッッ!!
勢いよく斜めに滑空したロゼリィは、
ガラスの大窓にそのまま足から衝突し、
豪快に割り抜き、
そして私たちはその勢いのまま
デパートの外へと飛び出した!!
体がふわっと浮く感じがして、
まぁるいお月様が大きく見えた瞬間。
「もうダメだ」
そう思った私は覚悟を決め、
静かにまぶたを閉じた。
お母さん、ごめんなさい。
たった15年の短い人生だった。
やりたいこともいっぱいあった。
食べてみたいものだってまだまだあった。
……そういえばこの仕事の報酬、
おいしいしぼりたて牛乳&乳製品だったっけ。
じゅる……。
……人生が終わる前に、
せめてそれぐらい
食べておきたかったなぁ……。
…………。
……って……あれ??
そのうち襲って来るとばかり思っていた
”急降下感” が、
いつまで経っても全然やって来ない。
不思議に思った私が、
ぎゅぎゅっとつむっていた目を
おそるおそる開けてみると……。
私とロゼリィは、空中に浮かんでいた。
言われるがまま、
目線を上のほうへとゆっくりスライドしていく。
右手で私を抱えているロゼリィ。
ロゼリィの左手がつかんでいるのは……
……ん? 縄梯子……だよね?
縄梯子は真っ直ぐ上に伸びていて、
その先にあるのは、
行きに乗ってきた飛行機・影虎丸弐号。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王子に支えてもらいつつ、
空中の縄梯子を上って飛行機の中へ。
あったかい紅茶を入れてもらって、
少しずつ飲んでるうちに、
だんだん気分も落ち着いてきた。
誰もしゃべろうとしないから
機内はしーんと静まり返っていた。
この沈黙を破っていいかどうか
ほんのちょっと迷ったけれど、
思い切って王子に話しかけてみる。
なにそれ、意味わかんない。
私、すっごく真面目にがんばったのに……。
……そこまで大爆笑しなくたっていいじゃん。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
このあと、
SNSでもTVのニュースでも
桜谷百貨店の窓を蹴破って
縄梯子&飛行機でさっそうと逃げる
“怪盗姫の後継者” の映像が、
おそろしいまでの勢いで拡散しまくった。
ニュースを見ててほっとしたことの1つが
“あの事件ではケガ人が誰も出なかった”
って報道されてたこと。
そういう報道がされてるなら
王子が気絶させちゃった
警察の円護寺さんも
たぶんケガまではしてなかったんだろうな……
…ほんとによかった。
あの人、悪い人じゃなさそうだったし。
でも冷静になってから考えてみたら、
特に最後、
あれだけ人が集まってる所で
大きな窓ガラス割ったのに、
ガラスの破片とかで
よく誰もケガしなかったよなって
不思議に思ったんだ。
調べてみたところ、
なんでもあの吹き抜けの窓ガラス、
ちょっと特殊な素材のガラスで
割っても飛び散りにくい構造らしい。
そのこと王子に報告したら
「そんなもん割る前から把握してる」
だって!
それならそうと
先に言ってくれてもいいと思わない?
……あ、そう!
ちなみに私のことも
“怪盗姫の仲間の少年怪盗” として
すごく話題になっていたんだ。
一応自分のことだし、
いろんなネットニュースとか
まとめサイトとかのぞいてみたけど、
誰ひとりとして
「怪盗姫が男で、少年怪盗が女だ」
って言ってる人がいなかったんだよね。
それって変装がカンペキすぎて、
正体が全然バレてないってことだから
安心すべきなんだろうけどさ、
「私やっぱ “小学生” に、
しかも “小学生男子” に見えちゃうのか」
って考えると、
乙女心を持つ女子高生としては
ちょっとばかり切ないよね……。
……あーあ、
年相応に見られたいもんだぜ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
改めて後日、
王子に呼び出された私は、
時計塔の秘密部屋へと来ていた。
王子ってば、
ものすごい悪人顔になってるんだけど……。
やっぱなんとなく
そうじゃないかとは思ってたよ……。
……おや?
王子の願いは、
先代怪盗姫であるお母さんに
再会するための手がかりをつかむこと。
今のところはまた王子のお母さんから
連絡らしきものは来てないみたい。
だけど、怪盗姫のことを知ってそうな
円護寺さんにも会ったわけだし……。
……案外そのあたりから、
重要な手掛かりがつかめちゃったりしてね!
カチャ
ドアが開き、
隣の部屋から出てきた面影さん。
面影さんが押しているワゴンの上には……。
一瞬ためらうような表情になる王子。
それを振り払うかのように
コホンと咳払いをしたかと思うと、
ゆっくりしゃべりはじめた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。