第6話

季節外れな転校と、白薔薇王子の秘密(5)
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2019/02/23 09:14
サト
サト
か、怪盗?! 
私が?!

えええええッ?!
皇太郎
皇太郎
いちいちうるせぇな……
サト
サト
だ、だ、だって私
どこにでもいる
フツーの女子高生ですよ?!

なのにいきなり
あの・・有名な怪盗姫の
後を継ぐとか無茶苦茶な――
皇太郎
皇太郎
おい待てバカ!
話が飛躍ひやくし過ぎだ!!
サト
サト
え?

だってさっき王子が――
皇太郎
皇太郎
俺は
怪盗になれ・・・・・
とは言ったが
怪盗姫になれ・・・・・・
なんて言った覚えはねぇよ!
サト
サト
一緒じゃないですか!
皇太郎
皇太郎
一緒じゃねぇよ!!

そもそもお前みたいな単純バカに
伝説の怪盗姫が務まるわけねぇだろ、
荷が重すぎだ!
サト
サト
バカとかうんぬんは
いったんおいといて、
荷が重いってのだけは同意します
皇太郎
皇太郎
お、わかってんじゃねぇか

怪盗姫の後継者を名乗るのは
お前なんかじゃねぇ
皇太郎
皇太郎
この俺・綾小路皇太郎・・・・・・だ!
サト
サト
…………
サト
サト
ええっ?! 
意味わかんないです!
皇太郎
皇太郎
よく考えてみろ、
怪盗姫は俺の母なんだぞ?

ならば実の子供であるこの俺が
“後継者” を名乗るのは
至極しごく当然じゃねぇか!
サト
サト
それ以前に王子は
大事なこと忘れてます!
サト
サト
王子は男ですよ?

フツーに考えて
男の王子が
姫を名乗るなんて
ちょっと不自然じゃないですか!!
皇太郎
皇太郎
お前な……


いい加減気づきやがれ
サト
サト
な、なにをですか?
皇太郎
皇太郎
だから・・・
女装してた・・・・・んだよっ!
サト
サト
はっ

そういうことだったのか!



ていうかよく考えたら
そもそもこの話自体、
“王子が女装してる理由” ってとこから
はじまってたんだったよ……


……すっかり忘れてたけど。


皇太郎
皇太郎
まぁ……あれだ

いくら俺が
怪盗姫の実の子供であっても

いきなり怪盗なんて
大それたことができるとは
考えちゃいねぇよ
皇太郎
皇太郎
だから
怪盗姫になると決めてからの
この10年の間に、

様々なシミュレーションを行ったり、
身体能力を鍛えたり、
知識を蓄えたりといった具合に
必要と思われるスキルを
人知れず磨き続けてきたのさ
皇太郎
皇太郎
女装スキルもその一環だ

姫と名乗るには
やはり女装するのが
1番わかりやすいからな
皇太郎
皇太郎
この時計塔は
俺が自由に使っていいと
薔薇高バラコ―理事長……
つまり俺の祖父から
許可を得ている場所で、

人に見られず様々な訓練を行うには
絶好の場所なのさ
皇太郎
皇太郎
だがまさか……

……女装の練習中に侵入してくる
お前のようなバカ・・・・・・・・が存在するとは
予想だにもしなかったがな
サト
サト
うっ……
なんかすいません
皇太郎
皇太郎
別に責めてるわけじゃねぇよ

考えてみりゃ、
この状況にも関わらず
今まで侵入者が
全くいなかったこと自体、
運がよかっただけの可能性もある

お前の言うとおり、
今後は鍵をつけるなど
時計塔自体の防犯も
強化すべきだろう
皇太郎
皇太郎
というわけで頼むぞ面影
面影
面影
承知いたしました
早急に諸々の手配をいたします


王子の返事を聞いた面影さんは
一礼してから部屋の外に出ていった。




王子と2人きりになったところで、ふと気づく。

サト
サト
…………あれ?
皇太郎
皇太郎
どうした?
サト
サト
怪盗姫になるのは
王子なんですよね?
皇太郎
皇太郎
そうだ
サト
サト
じゃあなんで私に
「怪盗になれ」
なんて言ったんですか?
皇太郎
皇太郎
決まってるだろ

怪盗姫の協力者として
一緒に怪盗をやれ、という意味だ
サト
サト
へ?!
サト
サト
な、なに言ってるんですか!

さっき王子、
私に言いましたよね?
「お前には怪盗なんか無理だ」
みたいなこと!
皇太郎
皇太郎
いや、無理だといったのは
あくまで “怪盗姫” であって

その協力者としてだったら
案外いい線いってると思うぞ?
サト
サト
無理です無理です!

だって私、
別にとりえもなんもない
ただのフツーの女子高生で――
皇太郎
皇太郎
バーカ

普通の女子高生が
あるかもわかんねぇぐらいの
わずかなのこだけで
朝食の内容を
判別できるわけねぇだろ
サト
サト
あれは私が
人よりちょっと鼻がいいだけで――
皇太郎
皇太郎
ちょっとどころじゃねぇよ!
サト
サト
え?

急に真剣な顔で立ち上がった王子に
不意を突かれ、

思わずドキッとしてしまう。



皇太郎
皇太郎
いいかよく聞け!

お前はな、
その嗅覚きゅうかく
完璧だとばかり確信してた
俺の変装まで
見破っちまったんだぞ?

どう考えたって
普通じゃありえねぇよ
皇太郎
皇太郎
もっと自信を持て!

お前はすげぇんだ、
それこそ
そんじょそこらの奴の
じゃねぇぐらいにな!
サト
サト
……!!


なんだかんだ言っても王子ってば、
顔だけはすっごくいいんだよね。


その整った顔で、急に真面目な表情になって、
こっちをまっすぐ見つめて
ほめてくるだなんて……。


……さっきまで散々バカにしてたくせに

ずるすぎるよ……。





……でも、
こんな風に言ってくれるってことは
王子は私を必要だって思ってるってことだよね?


怪盗活動をする理由も、
「1度でいいからお母さんに会いたいから」
ってことだったし。

そう願う気持ちはすっごくよくわかる。
だって私も……。




だからこそ、できることなら
手伝ってあげたいとも思うんだよな……。





……怪盗、か。


サト
サト
……本当に
私でいいんですか?
皇太郎
皇太郎
ああ、お前がいい!
お前の嗅覚は絶対役に立つ!
サト
サト
王子……
皇太郎
皇太郎
まぁ俺に任せとけ!

なんたって
「バカとハサミは使いよう」
とも言うからな!
サト
サト
?!
サト
サト
ちょ、ちょ、ちょ
なんですかバカとハサミて?!
皇太郎
皇太郎
知らねぇのか?


「バカとハサミは使いよう」
ってのは昔のことわざでな、

切れにくくなっちまったハサミであっても
何かしら使い道があるように、

お前のようなバカであっても
能力を活かして使ってやりゃ
役に立つって意味だ
サト
サト
ちょっと!
相変わらず私のこと
バカ扱いじゃないですか!
皇太郎
皇太郎
悲しいかな現実だ、
しっかり受け入れろ

お前自身は
気づいてないかもしれんがな
話せば話すほど
バカっぷりが露呈ろていしまくってたぞ?
サト
サト
ひどっ!

王子のその発言さ、
人に協力してってたのむ時の内容じゃないよね?

本当にありえない!
サト
サト
私、怪盗なんか
絶対やりません!
皇太郎
皇太郎
まぁ落ち着け

別にタダで協力しろ
と言ってるわけじゃない

お前が協力するなら
その見返りとして
何らかの報酬を
用意してやるつもりだ
サト
サト
なにそれ?!

お金とか物とかで
つろうっていうんですか?


気持ちの問題なんです!
そんなもんでつられるわけ――
皇太郎
皇太郎
しぼりたての牛乳”
サト
サト
な?!
皇太郎
皇太郎
“作りたての乳製品”
サト
サト
ッ?!
サト
サト
きゅ……急に
なにを言い出すんですか?
皇太郎
皇太郎
お前にやる報酬の
例をあげてたんだよ

こういうの好きなんだろ?
サト
サト
そりゃ、まぁ……
そうなんですけど……
皇太郎
皇太郎
我が綾小路の
直営牧場の製品は、
味も品質も全てが最高なのさ
皇太郎
皇太郎
毎朝我が家に届けられる
搾りたて牛乳の風味豊かな味わい……

新鮮な牛乳の風味を活かし
作られる乳製品の数々……
皇太郎
皇太郎
……中でもな、
特製の生クリームがおすすめだ
サト
サト
特製の生クリーム?!
それってどんな?
皇太郎
皇太郎
たまらんぐらい濃厚だぞ……

砂糖をほんの少し加えて
泡立てただけでごちそうでな……
サト
サト
(……ごくり)
皇太郎
皇太郎
あ、そうそう

その濃厚な生クリームを
惜しげもなく使って作った
アイスクリームもあるな
サト
サト
な、なんと!
皇太郎
皇太郎
風味豊かな上に
濃厚でなめらかで、

極上の逸品なんだよなぁ
サト
サト
ふおおぉぉおぉっ!
皇太郎
皇太郎
……さてと
皇太郎
皇太郎
ここで何かしら
俺に言うことがあるんじゃねぇか?


……ええいっ!
もうっ、どうにでもなれ!!

サト
サト
やりますっ!
私、怪盗やります!

ていうかむしろやらせてくださいっ!
皇太郎
皇太郎
そうこなくっちゃな
サト
サト
はいっ!
これからよろしくおねがいしま――
皇太郎
皇太郎
ちょっと待て

俺は仲間同士の敬語は嫌いだ
サト
サト
え、仲間?
皇太郎
皇太郎
そうだ

これから俺達は
怪盗として共犯者、
つまりは仲間になるわけだろ?

まぁ校内とかで
他の奴の目がある時は別だが
この2人と面影だけの時は
敬語は無しってことでたのむぜ
サト
サト
あれ?
でも面影さんは敬語なんじゃ?
皇太郎
皇太郎
面影にも敬語を使うなとは
言ってるんだがな……

「自分は執事だから」とか言って
かたくなに敬語を使いやがるんだ

あぁ……面影さん、真面目そうだもんね。
皇太郎
皇太郎
ま、というわけで

今後ともよろしくたのむぜ、共犯者!
サト
サト
こちらこそ、その……よろしく


がっちりと2人で握手をした瞬間、

なんか本当に仲間っぽいなって
すっごく実感したのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



サト
サト
(なんか初日から
 とっても濃い昼休みだったな……

 ……ちょっと疲れた)

そんなことを考えつつ、1年D組の教室に戻る。

ミホナ
ミホナ
あら、サトさん
カエ
ほんとだっ
エリコ
もー☆
どこ行ってたんだよー
サト
サト
あ、えっと、
ちょっといろいろ

それよりごめんね
一緒に学食行くって約束してたのに
カエ
別にいいって!
エリコ
また今度行こー☆
サト
サト
うんっ
ミホナ
ミホナ
ちなみにサトさん、
昼食は結局
どうなさったんですか?



 ぐぎゅるる……。




ミホナの言葉を聞いた途端、
私のおなかが激しく主張しはじめる。

サト
サト
あっ
食べるの忘れてた!

教室の時計を見ると、お昼休み終了5分前。
サト
サト
うわ……

今からじゃ学食も購買も
絶対に間に合わないじゃん……

このきまくりなおなか抱えて
午後の授業を受けるとかツラすぎだよ……。
ミホナ
ミホナ
サトさん、よかったら
こちらをどうぞ
サト
サト
これは?
ミホナ
ミホナ
購買で販売している
焼きそばパンですわ

こうなりそうな気がしたので
念のためサトさん用に1つ
購入しておきましたの
サト
サト
え、いいの?
ミホナ
ミホナ
もちろんですわ!

サトさんのために購入したものですし
遠慮なくお召し上がりくださいね


ミホナお嬢様、マジ天使……!!

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