固まっていた “美少女” こと
“白薔薇王子”は、
すぐに気を取り直してしゃべりはじめた。
ややとまどい気味の美少女を前に、
私は呼吸を整え、そして言う。
美少女は血相を変え、
自分の服のニオイをかぎ始めた。
考え込む美少女。
ややあってから、
あきらめたように笑って言う。
さっきまで完全に女声だったはずの
“美少女” のしゃべりが、
急に男声に、しかも
“王子と同じ声” にガラッと変わった。
おや、なんかおかしいぞ……?
私と王子って、
今日が初対面だよね?
出会った初日から
さらっとこんなに暴言あびせまくってくるとか、
この人ナチュラルに失礼なんだけど。
なんか性格も悪そうだし……。
おまけに言うと
こんなヤツにときめいてた
胸のドキドキはもっとありえない。
さっきまでの私の
キュンキュンどっきゅんドキドキばくばく
全部まとめて返しやがれ。
王子が入口のほうに向かって呼びかけると。
カチャリ
部屋のドアが開き、執事が現れた。
いやいやそもそもフツーの家には
執事なんかいないですから!
少し困った顔をする執事さん。
どうしたんだろう?
そう。
王子も私も
すっかり忘れていたのだ。
さっき王子(女装)が上に乗っかる形で
私を取り押さえたんだけど、
それはいまだに解除されておらず
ずっと同じ体勢のままであったことを!!
私たちは同時に悲鳴を上げ、
そして王子は
まるで転げ落ちるかように
部屋の隅へと素早く飛び退いていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
執事の面影さんのスマートな誘導で、
王子はとりあえず隣の部屋にて
変装解除の着替えタイム。
戻ってきた彼は、確かに白薔薇王子だった。
ただしガラは悪かった。
私に優しくほほ笑んでくれた
キラキラ王子様なんて、
最初からどこにもいなかったんだ。
さよなら、私のときめき。
さよなら、私の一目惚れ。
でもこの人、
さすが“王子”と呼ばれるだけはあって、
顔だけは無茶苦茶かっこいいんだよな
足も長いし、
スタイルもいいし、
「今度デビューの大型新人アイドルです!」
とか紹介されて
ある日突然テレビとかに出てきたとしても
ちっとも違和感ないぐらい、
全体的に外見レベルが高すぎる。
私の視線に気づいた王子がニヤリと笑う。
逆だよ逆逆、
100年の恋も冷めちゃったのっ
こうして
再び私への “尋問” がはじまった。
廊下で王子とぶつかって、
“匂い” に気付いて思わず追いかけて、
校舎を飛び出し森を走ってたら
時計塔に到着して、
入口の大きな扉を開けて中に入って、
螺旋階段をグルグル上って、
そしたらこの部屋を見つけて……王子に会った。
基本は私がこんな感じで説明して、
合間合間でちょこちょこ王子が
上から目線で口を挟んだり質問してきたり。
聞かれたことには素直に答えた。
だって私、別にやましいことなんかないんだもん。
ただしっ!!
“キラキラverの王子にキュンとしたこと” だけは
ひとことだってしゃべんなかった!
王子の中身がこんな失礼なヤツだって知ってたら
ぜーーーーーーったいに
ときめいたりなんかしなかったのに!!!!
王子の偉そうな口調と合わせて
なんかムカついてきたから、
私からもぶつけてやる。
そういやそんなこと、
ミホナから聞いたような気がする!
薔薇の絵……?
サッとタブレット端末を取り出し、
手慣れた様子で操作をしはじめる面影さん。
面影さんが顔をあげた。
「信じられない」とでも言いたげな顔で
口をぱくぱくさせる王子。
さっきまでの勢い、どこに行ったんだか……。
……ま、とにかく
私が不審者じゃないって
ちゃんとわかってもらえたよね?
なんか王子っていちいち偉そうだし、
関わってもロクなことなさそうだし、
さっさと教室に戻ろうっと。
部屋を出ようとする私を
怒ったように呼び止める王子。
まだなんかあるの……?
私個人としては
趣味って人それぞれだと思うし
まわりに迷惑とかかけなきゃ
別になんでもかまわないと思ってる。
でも……やっぱ女装ってまだまだ
世間的には完全に理解してもらえてる趣味だとは
言い切れない部分があるよね。
“学園で人気の白薔薇王子様に女装癖がある”
って広まっちゃったら
いろいろ困ったことになりそうだし、
きっとみんなにはバレたくないんだろうな。
そりゃ王子は
さっきから人のことバカバカ言うし
すっごく失礼なヤツだけど、
だからって別に
私は仕返ししたいわけでもなんでもないし、
秘密を言いふらす気もないし。
ここは私から「だいじょうぶです」とか言って
王子を安心させてあげたほうがいいっぽいね!
と手近な椅子にどかっと腰かける王子。
すかさず面影さんが
別の椅子を差し出してくれる。
思わず座ってから気がついた。
これ、王子の話に耳をかたむける体勢じゃん。
私は別に聞きたいわけじゃないんだけど……。
……ま、
この状況じゃ逃げられそうにないし
王子の気が済むまで、
話に付き合うっきゃないかな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。