転校数日で
私立 薔薇ヶ原学園高等学校での生活にも
だいぶ慣れてきた気がする。
なにかと助けてくれたミホナ達には
感謝してもしきれないぐらいだね。
そして転校してから初めての日曜日のお昼過ぎ。
王子に呼び出された私は、
私服姿で待ち合わせ場所へとやって来たのだった。
指定されたのは、広めの駐車場。
広いだけあって車もたくさん停まってるから
どれが王子の乗ってる車か全然分かんない。
というかここに来るまでも駅から遠いし、
通り道にもこれといった目印がないし、
待ち合わせとして指定するには
あんまり親切な場所じゃないと思うんだよね。
どれも同じに見える車の間をグルグルまわりつつ
お目当ての車を探していると。
声のほうを見ると、
1台の大きな車の窓から
女装&私服姿の王子の顔がのぞいていた。
ホッとして車に駆け寄ると。
第一声からキレられた。
王子から言われてるのは
今日は盗みのターゲットを下見に行くってこと。
詳しくは集合してから話すってこと。
それと下見に必要な準備は
王子と面影さんのほうでするから、
私は何も用意しなくていいってこと。
あとは待ち合わせの時間と場所、ぐらいかな。
そうだよね。
今日は学校休みだし
クラスの子とかにばったり会ってもおかしくない。
王子に言われるまで、
まったく気づきもしなかったよ……。
改めてまわりを見渡しても、
やっぱり同じような車だらけ。
私だって今の今まで
王子の車がどれだかわかんなくて
迷ってたわけだし……
ある意味、王子の言葉を
身をもって体験したばかりってやつかも。
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王子の車、もともと大きめだなとは思ってたけど
中に入ってみたら想像以上に広く感じた。
そして広いだけじゃなく、
内装もとっても豪華っぽくてびっくり!
例えるなら、前にTVで見た
“五つ星ホテルの最上階のスイートルーム”
をこじんまりさせた雰囲気っていえばいいかな?
壁も椅子も手触りがすごくよくて、
車の中だって信じられないぐらいだよ。
乗り込んですぐ
運転席に面影さんがいるのに気づいて
軽く挨拶しようとしたところ。
今日の面影さんは
割とカジュアルめな服を着てた。
これはこれで似合ってるんだけど
やっぱり執事服のイメージが強かったからか、
なんか違和感があるなー。
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面影さんの誘導で、
車の後ろのほうの着替え用スペースへ。
使う時だけカーテンでうまく仕切れる感じの
仕掛けになってて、
狭めではあったけど
着替えるだけなら十分な空間だった。
スペースに用意してあったのは、
ボーイッシュめな服装一式。
普通のアイテムばかりだったから
迷うことなくすんなり着替えて
カーテンを開ける。
不意打ちのはじけるような笑顔に、
思わずキュンとしてしまう。
そんな風にストレートにほめられたら……
…やっぱ、なんか照れちゃうな。
言われるまで手作りのだって気づかなかった。
面影さん手作りの服は
デザインも造りもしっかりしていて
お店に並んでても違和感が仕事しない気がする。
意味ありげににっこり笑う面影さん。
そういえばこの間も
“私が転校生だ” ってこととか
手元のタブレット端末で調べてたよな。
普通に考えて
あんなのすぐに調べられるわけないし。
面影さんって味方だと心強いけど、
案外、敵にまわすと恐いタイプなのかも……。
……これ以上、
何も聞かないほうがよさそうだね。
思わず王子の顔を見る。
もともと顔が整っているというのはあるけど、
その綺麗な顔立ちを活かしつつも
全く別人の “美少女女子高生” に仕上がっていた。
これを担当したってことは
面影さん、相当メイクが上手だよ?!
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私が「よろしくお願いします」と伝えると、
面影さんはすぐに仕上げにとりかかりはじめた。
まずは
ショートカットのウィッグを私にかぶせる。
もともとの私の毛質にかなり近くて
ウィッグをつけても
「かぶってます!」
って感じが全くない自然な感じ。
続いて取り出したのはメイク道具。
引き出しいっぱいなメイクボックスには
本職のメイクさんかって思うぐらい
メイク道具がたくさん入っていた。
面影さんはそれらを使い、
手慣れた様子でメイクをほどこしていく。
そして最後に帽子をかぶせて……。
と言いつつ鏡を見せてくる面影さん。
面影さんのメイクの腕なら、
きっとすっごくかわいくなったに違いない!
わくわくしながら鏡をのぞきこむと……。
正直なところ
王子の「女として上」発言はどうかと思う。
けれども目の前の、
自信たっぷりな “美少女” を見ると
返す言葉が見つからなかった。
だって、本当にかわいいんだもの……。
確かに王子の言うことには一理あると思う。
だけど……なんだろう……
ものすごーーーく複雑な気分。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。