第5話

季節外れな転校と、白薔薇王子の秘密(4)
1,072
2019/02/18 03:54
皇太郎
皇太郎
……ところでお前は
“怪盗姫” を知ってるか?
サト
サト
それって王子の女装と
なんか関係あるんですか?
皇太郎
皇太郎
順を追って話す

知ってんのか?
それとも知らねぇのか?
サト
サト
えっと……

TVのバラエティで
怪盗姫の特集やってるの
ちらっと観たことあるなぁ、
ってぐらいな感じで
ほとんど知らないんです
皇太郎
皇太郎
まぁ怪盗姫は
俺やお前が生まれるより前に
活動を休止しているし、

その程度の認識でも
仕方ねぇだろうな……
皇太郎
皇太郎
本題に入る前に簡単に説明しておく
皇太郎
皇太郎
“怪盗姫” というのは、
二十年ほど前に
この東京を中心として
活動していた泥棒だ
皇太郎
皇太郎
一般的には 
"怪盗姫" と呼ばれているが
これはあくまで
TVや新聞なんかがつけた
ふた” とか
“ニックネーム” のようなもんで、

本人はあくまで “ジュディ” とだけ
名乗っていたらしい
皇太郎
皇太郎
だから場合によっては
両方合わせて “怪盗姫ジュディ” と
呼んでるケースも少なくねぇんだ
サト
サト
そういえば
私が観たTVでも
“怪盗姫ジュディ” って
言ってたような気がします
皇太郎
皇太郎
だろ?
皇太郎
皇太郎
怪盗姫は言ってしまえば
泥棒なんだけどな、
他の多くの泥棒達と違って、
自らの欲を満たすためだけの
盗みは絶対にしない

怪盗姫の盗みは全て
困った他人のためだったんだよ
皇太郎
皇太郎
例えば最も多いケースだと……

“騙し取られた物” を
被害者に代わって取り返すとかな

いわゆる “義賊” ってやつだ
皇太郎
皇太郎
もちろん現代日本の法律じゃ、
いくらられた物であっても、

怪盗姫がやったように
司法の手続きなんかをふまずに
勝手に取り返す、なんてのは
犯罪行為とみなされちまう
皇太郎
皇太郎
にも関わらず民衆の多くは
熱狂的に怪盗姫を支持していたんだ
皇太郎
皇太郎
俺も直接は知らないが
怪盗姫が活動していた当時、

彼女がどこかで盗みを行えば
翌日はTVのニュースも新聞も
そのことを大きく報じていたし、
世間の人々の話題だって
怪盗姫一色に染まってしまう

それぐらい当時の彼女は
日本中を騒がせていたらしい
皇太郎
皇太郎
だが、18年前の事件を最後に
怪盗姫はぱったりと盗みをやめた
皇太郎
皇太郎
もともと彼女に関して
一般的には謎に包まれていてな……
皇太郎
皇太郎
盗む前には必ず
わざわざ予告状を出すくせに、
予告当日の動きが神出鬼没すぎて
警察や何やらが対処できなかったんだ

重要な手がかりすら残さないから
正体だって不明のまま
皇太郎
皇太郎
だから “その後”、つまり
「活動休止後どうしているか」
ということに関しても
いまだに分かっていないとされている

まことしやかに
色んな説はささやかれているけどな……
皇太郎
皇太郎
……とまぁ、
ここまでが前提だ
サト
サト
ずいぶん長い前提ですねー

正直にいうと、
長すぎてちょっぴり飽きてきたところ。


“怪盗姫の話” と “王子の女装” に
関係ありそうな感じも全然しないし。

皇太郎
皇太郎
しょうがねぇだろ、
怪盗姫について知識がないと
このあとの話が進まねぇんだよ
皇太郎
皇太郎
じゃこっから本題
皇太郎
皇太郎
実はな、
怪盗姫の正体ってのが
俺の母・・・らしいんだ
サト
サト
……??

理解が追いつかず、一瞬きょとんとする。
皇太郎
皇太郎
なんだ間抜けな面しやがって?

聞こえなかったか?

俺の母が怪盗姫と名乗って
泥棒をやってたらしいって言ったんだ
サト
サト
え、ちょ、
待ってくださいっ!
サト
サト
今の今まで
「怪盗姫は謎だらけ」とか
「正体もわかんない」とか
話してたばっかなのに、

いきなり
「実は怪盗姫は俺の母だっ」
とか、急展開すぎません?!
皇太郎
皇太郎
別にいいだろ
事実なんだから
サト
サト
事実って……

王子のお母さん本人が
そうだって言ってたんですか?
皇太郎
皇太郎
いや

そもそも俺は
母の顔すら知らねぇよ
サト
サト
……え?
皇太郎
皇太郎
物心ついた時には
既に両親が離婚済みでな

俺は父側に引き取られ
綾小路の本家で
祖父母や父らと暮らしていたから
母には1度もあった記憶がないんだ
サト
サト
じゃあ、私と一緒ですね
皇太郎
皇太郎
そうなのか?
サト
サト
ただうちの場合は
小さい頃から
お母さんと2人ぐらしで、

お父さんだけじゃなく
おじいちゃんにも
おばあちゃんにも
会ったことないんですけど
皇太郎
皇太郎
そうか……まぁ
最近は別に離婚なんて
珍しくもなんともないしな
サト
サト
そうですね……
サト
サト
……でも
お母さんじゃなかったら

怪盗姫のことを
誰から聞いたんですか?
皇太郎
皇太郎
父からだ

俺が小学校に上がってすぐ
急なやまいで父が死んじまってな
サト
サト
え、そんな……
皇太郎
皇太郎
別に暗い顔になる話でもねぇよ
もう10年も前の出来事だしな

それに俺には
一緒に暮らす祖父も祖母もいるし、

でっけぇ綾小路家の屋敷では
ここにいる面影だけじゃなく
使用人だって大量に働いてっから……
皇太郎
皇太郎
……人数だけでいえば
かなりにぎやかだったぜ?
サト
サト
…………

てっきり王子は
ただの性格最悪で失礼な金持ちのお坊ちゃん
なんだとばかり思ってた。



だけど。

王子だってまだ高校生なのに
“お父さんのこと” を
こんな風にさらっと話しちゃうとか……。

……案外、彼は彼で色々と大変だったのかも。





そんなことを考えつつ
横で控えている面影さんのほうを何気なく見ると、

私の視線に気づいたらしい面影さんと目が合った。

面影
面影
(……にっこり)

あったかい笑顔。



たぶん面影さんは
全て、わかっているんだと思う。





皇太郎
皇太郎
……じゃ、話を戻すぞ
皇太郎
皇太郎
父はな、死んじまう間際に
小学1年生だった俺を枕元に呼んだ

俺と父の他にいたのは
当時は父に仕えていた面影のみ

父いわく「3人だけで話がしたい」
ということだった


そこで聞いた内容というのが――
サト
サト
お母さんが怪盗姫だった
ってことですね?
王子は黙って大きくうなずいてから
話を続けていく
皇太郎
皇太郎
色んな意味で驚いたぜ

そもそも母について
父が話してくれたのも
この時が最初で最後だしな……
皇太郎
皇太郎
……なんでも父が若い頃、
怪盗姫が盗みに入った現場に
居合わせたことで
2人は出会ったんだが、

一目惚れした父が
その場で怪盗姫を口説き落として
結婚にまで持ち込んだらしい
サト
サト
その場で口説いたって、
盗みの現場で?
皇太郎
皇太郎
ああ
皇太郎
皇太郎
面影もそこにいたんだよな?
面影
面影
さようでございます
面影
面影
坊ちゃまのお父上は、

怪盗姫様のお姿を
初めてご覧になった途端、

唐突とうとつにプロポーズのお言葉を
口に出されたものですから……
サト
サト
プロポーズ、ですか?
面影
面影
はい……

坊ちゃまのお父上の第一声は
「ジュディさん、私と
 結婚していただけませんか」
でございまして……
面影
面影
……さすがに怪盗姫様も
戸惑われておられたようで
ございました

そりゃ、とまどうよ!

盗みに入った先で、
たまたま出会った初対面の相手に
いきなり「結婚して」って言われたわけだもん!
サト
サト
……よくそれで
結婚に持ち込めましたね
面影
面影
それが
怪盗姫様は戸惑われた後、

すぐに
「あなたオモシロいわね」と
笑顔になられまして
面影
面影
いったんはその場から
お逃げになったのですが、

後日改めて、
怪盗姫様側からお父上へ
連絡をいただきましたことから
ご結婚へと至ったわけでございます
面影
面影
なお怪盗姫様……お母上は
ご結婚をきっかけに
怪盗活動から足を洗われたため、

実質、お父上と出会われた現場が
最後の盗みとなったわけです
皇太郎
皇太郎
とはいえ結婚できるまでには
紆余曲折あったらしい

祖父も祖母も親戚も
父と母の結婚に猛反対だったようだし
サト
サト
なんで?
皇太郎
皇太郎
曲がりなりにも父は
由緒正しき綾小路家の
跡取りだったんだぞ?

古い家だから家柄とかなんとか
こまけぇのを気にすんだよ
皇太郎
皇太郎
それでも祖父だけは渋々認めたんだが
祖母も親戚も最後まで反対してな……
皇太郎
皇太郎
そこで
“実は母が怪盗姫だ” ということは
父と面影だけの秘密にとどめつつ、
様々な画策をしまくって
どうにかゴリ押しに成功したらしい
皇太郎
皇太郎
だよな、面影?
面影
面影
…………
面影
面影
さようでございます

返事の前に一瞬だけ遠い目になる面影さん。


王子のお父さん、他にも無茶ぶりしてそうだし、
もうその顔からも苦労が伺えちゃうよ……。


皇太郎
皇太郎
まぁ結局、結婚生活は
うまくいかなかったようだが
皇太郎
皇太郎
俺が生まれて間もなく
母は1人で家を出てしまい、
その後の消息は不明

父も面影も
財力やらコネやら
綾小路家の力を駆使して
探しまくったものの、
手がかりひとつ
発見できなかったようでな……
サト
サト
そこまでして
見つかんないなんて……
皇太郎
皇太郎
さすがは怪盗姫ってとこだろ?
サト
サト
……そうですね


“最後の事件” を起こしたあと
怪盗姫がどうしているかっていうのは
世間的には誰も知らないってことになってる。



TVでも
「事件当時、警察とかも必死に行方を追ってた」
みたいな感じで紹介してたような気がするし、
探してるのは王子のお父さんだけじゃないはず。


そんなのから全部逃げ切ってるとか、
怪盗姫ってほんとにすごいんだと思う。

皇太郎
皇太郎
だがな、俺は……

……1度でいいから
母に会ってみたいんだ
サト
サト
!!
サト
サト
あのっ、
その気持ちすっごくわかります!

私も会えるもんなら
お父さんに会いたいですもん!
皇太郎
皇太郎
……そういや
お前も父がいないんだったか
サト
サト
はい

まわりの子はほとんどみんな
お父さんもお母さんもそろってて
それなのにうちは
お母さんしかいなくて

だけど、
お母さんの前じゃ
お父さんについては
話題にしちゃいけないんだ
ってなんとなくわかって……
サト
サト
……だから小さい頃は
しょっちゅう
「もしうちにお父さんがいたら……」
って妄想したり
「お父さんってどんな人なのかな?」
って考えたりしてました
皇太郎
皇太郎
なんだ、だいたい俺と
似たようなもんじゃねぇか
皇太郎
皇太郎
まぁ父が死んじまってすぐは
気持ち的にも
そんな余裕はなかったんだけどよ

しばらく経って
色んなことが落ち着いた頃に

父がしてくれた話を
ふと思い出してな……
皇太郎
皇太郎
……で、
ひらめいたのさ!

もしかしたら
父の話の中に母と再会するヒント・・・・・・・・・
隠されてんじゃねぇかってよ!
サト
サト
でも王子のお母さんって
元・怪盗姫で、

今何してるかとかの手がかりが
まったく無いんですよね?
皇太郎
皇太郎
ああ、そうだ

こちらがどんなに必死に
探そうとしたとしても
見つけ出せる確率なんて
ほぼほぼゼロに近いだろうな
サト
サト
だったらやっぱ
無理なんじゃ――
皇太郎
皇太郎
バーカ!
サト
サト
え??

なんでそんなこと
言われなきゃなんないんですか?
皇太郎
皇太郎
お前がその程度の発想しか
できてねぇからだよ
サト
サト
その程度って……

じゃあ王子には
他にすっごいアイディアがある
って言うんですか?
皇太郎
皇太郎
当然!

俺は綾小路家の次期当主だぞ?

凡人ぼんじんの先を行くぐらいじゃねぇと
やってけるわきゃねぇだろ
サト
サト
ぼ、ぼんじん……

あり得ないほどの上から目線発言に
ちょっと引いた。

だけど王子の家はすごそうだし、
案外これも冗談じゃないんだろうなって思うと
住む世界の違いも感じちゃう。
皇太郎
皇太郎
まぁ俺の考えている計画を
お前のようなバカが
完全に理解するのは無理な話だから
かみ砕いて教えてやろう
皇太郎
皇太郎
逆転の発想だ!

俺たちのほうが
怪盗姫を探すのではなく、

怪盗姫のほうから
俺たちに会いたくなるよう
トラップを仕掛けるのさ!
サト
サト
トラップっていうと
えっと……
皇太郎
皇太郎
なんだ?

そんなことも理解できねぇほど
バカだったのか?
サト
サト
ちがいますっ!

ふだんあんまり聞かない言葉だから
ちょっと考えちゃっただけですっ
サト
サト
あれです、確か……
日本語だと「わな」ってやつですよね?
皇太郎
皇太郎
その通りだ
サト
サト
でも、具体的には
どんなトラップを仕掛けるんですか?

怪盗姫ぐらいともなると
フツーの罠じゃ無理ですよね?
皇太郎
皇太郎
聞いておどろけ!

復活させるんだよ、
怪盗姫をな!!
サト
サト
??

怪盗姫を探すために怪盗姫を復活させる?

そもそも怪盗姫が見つからないのに
復活させるとか不可能なわけで、
でも王子は自信たっぷりに
「復活させる」って断言してて……。

まったくもって意味わかんないんだけど。
皇太郎
皇太郎
まぁ正確に言えば
復活するのはあくまで
“怪盗姫という称号を” という意味だ

つまり “怪盗姫の後継者” を名乗る
別の泥棒を作り出すのさ!
サト
サト
え?

それがどうやったら
怪盗姫を見つけることになるんですか?
皇太郎
皇太郎
怪盗姫本人からすれば
勝手に他人が
“怪盗姫の後継者” を名乗って
盗みを行っていたら、
絶対気になるはずだろ?

おそらくは多少なりとも
何らかのアクションを起こすはずだ
皇太郎
皇太郎
うまくいけば、
怪盗姫本人から
連絡してくるかもしれねぇ
サト
サト
でも……怪盗姫は
誰にも見つからないようにしてるのに

直接本人から連絡なんて来ますかね?
皇太郎
皇太郎
ああ、
前例があるんだよ!
皇太郎
皇太郎
そうだな面影?
面影
面影
はい、坊ちゃまのお母上なら
充分に考えられます

お父上の時も
怪盗姫様のほうから
ご連絡いただいたわけですから
サト
サト
あっ

そういえばさっき王子が言ってた!



王子のお父さんって
いきなり怪盗姫にプロポーズしたんだよね、
しかも初対面で。

そんなワケわかんない状況で連絡してくる
怪盗姫だったら……。

サト
サト
……確かに、
本人から連絡がきても
おかしくないかもしれません!
皇太郎
皇太郎
だろ?
ようやく理解できたようだな
サト
サト
あ、はい!
皇太郎
皇太郎
ということで、
ここでお前にひとつ話がある
サト
サト
なんですか急に?
皇太郎
皇太郎
急じゃねぇよ!

説明の前に前置きしただろ、
「あとで話がある」とな
サト
サト
え、しましたっけ?
皇太郎
皇太郎
ったく、
これだからバカは……

そんなこと言われたって
ちっとも記憶にないんだもん。
サト
サト
……それで、
私に話ってなんですか?
皇太郎
皇太郎
ああ……
そうだな
皇太郎
皇太郎
お前、怪盗になれよ!
サト
サト
…………え?

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