第3話

季節外れな転校と、白薔薇王子の秘密(2)
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2019/02/02 08:17
“いい匂い” に誘われるまま、
全力ダッシュで廊下を駆け抜け、
3段飛ばしで階段を跳ね下り、
校舎を飛び出す。




この学校はとても広い。

前に通ってた高校も
けっこう広めだったはずなんだけど、
薔薇高バラコ―の広さ、軽くその倍はあると思う。


広い分だけ建物も多い。

グラウンドや花壇や広場などなど、
建物以外の施設だって多い。

お昼休みで天気もいいからか、
思い思いの場所に座っては
楽しそうに弁当を広げる学生の姿もちらほら。


そんな様子を横目にしながら
ただよう匂いをたよりに、ひたすら走る。




走っているうちにだんだん
道の脇に生えている木が増えてきた。

意外と東京にも緑が多いんだなぁ、
なんて感心しつつ
引き続き匂いを追いかけていると。


気が付いた時には
右も左も、上でさえも、
足元に延びる細い道以外のまわり全てが、

うっそうとしげる木々に
おおい隠されてしまっていた。


サト
サト
あれ?
ここって森?

私、いつの間にか
学校の敷地の外に出ちゃった?

走り続ける私の頭が
ちょっとずつ混乱し始めてきちゃった頃。



閉じ切っていたはずの視界が
一瞬にしてバッと広がった。
サト
サト
わぁ……すごい……!!


思わず走ることを忘れ
立ち止まって見とれてしまう。

私の目の前に広がった空間は
それほどまでに “非日常” なものだったんだ。






森の中の開けた場所。


その中央に
周りを囲む立派な緑の木々を背景として
天高くそびえるのは、
存在感もたっぷりな石造りの古びた塔。


その光景はすっごくキレイで、
どことなく不思議な雰囲気をかもしだしていて、
古い外国映画の中にでも迷い込んだのかな
って錯覚しちゃいそうになる。





壮大な世界観にひたりつつ
そびえ立つ塔を眺めているうち、

塔の外壁の最上部あたりに
“何か仕掛けらしき物” が
くっついているのを発見した。

サト
サト
なんだろう?
えっと…………時計の文字盤……?
サト
サト
……ていうかこの塔、
教室から見えてた時計塔じゃん!!

2限目の数学の授業に
ちょっと退屈してしまった私が
息抜きがてら窓の外をチラッと見たら、

ふと目に入った時計塔が気になって
しばらく眺めていたんだよね。





それにしても
今日の数学は少し難しかった。

初日からつまずくとかちょっとヤバいし、
帰ったら復習しなきゃなー。



あぁー、数学嫌い!


算数時代の簡単な足し算とか
九九ぐらいはヨユーだったはずなのにさ、
“連立方程式” とかいう言葉が出だした頃から
急に難しくなっちゃってさ。

最近じゃもう、
XとかYとか見かけるだけで
気分がずしって重くなってくるんだよ……。


サト
サト
…………



……うん。

いったん数学は忘れよう。




まぁ数学のことを思いだしたおかげで
ちょっと冷静になれたから、
結果OKって思うことにしておこう。



サト
サト
それより今は時計塔だよっ!


塔の1階部分には、
“薔薇の花の絵”が大きく描かれた
特大サイズの重厚でアンティークな金属扉。



周囲をぐるっとまわってみた結果、
入口はこの1ヶ所だけだった。

そして王子からしてた “いい匂い” は
この扉の向こう、つまり塔の中へと続いている。

サト
サト
よっしゃ、中に入ってみるかーっ!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



塔の中は暗かった。


入口扉を閉めてしまえば完全な暗闇の完成。

だけどどこにも
電気のスイッチみたいなものは見当たらなくて。




私はスマホのライトを懐中電灯がわりにして
匂いのする方向へと進んでいく。




長い長い螺旋らせん階段を
ずーっと上っていくと、
突き当たりのような場所に到着。


階段終わりに続く狭いフロアには
これまた塔入口と同じように
“薔薇の花の絵” が描かれた扉がぽつん。

この扉のほうがサイズはだいぶ小さいけどね。




 コンコンッ




ノックの返事は……

……返ってこないみたい。



誰もいないのかな?



サト
サト
失礼しまーす
 
一応、声をかけながら
明かりがわりのスマホ片手に
ゆっくりと扉を開けてみる。



人がいそうな感じはしない。

でも扉の向こうも真っ暗で
スマホのライトだけじゃ様子はよく分からない。

サト
サト
やっぱ電気ほしいよなー

スイッチでも探してみるか!

ということで
真っ暗な室内へと足を踏み入れていくと。




 バタンッ!!




背後から聞こえたのは、
ドアが勢いよく閉まる音。

サト
サト
へ?!
サト
サト
ぐはッ!!

びっくりした私が振り返ろうとしたのと同時に、
背中に衝撃が走る・・・・・・・・

突然の激痛に声も出ずもだえていると、
ぱっと電気がついた。


??
??
……

部屋が明るくなった瞬間、
私の目の前にいたのは、

同い年ぐらいの見知らぬ美少女・・・・・・・



彼女・・は私をにらみつけつつ、
向かい合って上に乗っかる形で
床に押さえつけている。




どうやらさっきの衝撃は、
「この美少女・・・
 床に叩きつけるように私を取り押さえた」
……ってのが真相っぽい模様かも?




??
??
あんた、いったい何者?

先に口を開いたのは美少女・・・だった。


なんか無茶苦茶怒ってるみたい。


サト
サト
何者って……

別に怪しいものじゃ――
??
??
なわけないでしょ?!

時計塔に入ってくる時点で
誰であっても不審者確定なのよっ!!
サト
サト
え?

あなただって入って来てるし
人のこと言えないんじゃ――
??
??
あたしはいいのッ!!
サト
サト
なんで?
??
??
なんでもっ!!
サト
サト
なんでもって、
そんなめちゃくちゃな……
??
??
それよりあんた、
本当に薔薇高バラコ―の生徒なの?
サト
サト
そうですけど……

制服も着てますし――
??
??
制服なんてどうにでもなるでしょ?!
証拠にもなりゃしないわよっ!!
サト
サト
うぅぅ……

美少女・・・の無茶苦茶な暴論も、
なんで乱暴に取り押さえられたかも、
正直よくわかんない。



だけど、たった1つだけ
はっきり確信してることがある。

サト
サト
……あの
??
??
なに?
自白する気にでもなった?
サト
サト
あなた……

……“白薔薇王子・・・・・”、ですよね?


私の言葉を聞いた “美少女・・・” こと
白薔薇王子・・・・・” は、

とても驚いた顔で固まったのだった。

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