ひとり、またひとりと、
屋敷の人間が取調べを受ける。
レストレードが立ち会っていた印象としては、
紅茶を運んだ侍女も、紅茶を淹れた料理人も、
その他の使用人もシロだ。
それというのも、料理人も侍女も、1人になる瞬間がなかったのだ。
料理人が紅茶を入れた時、周りにほかの使用人が2人いた。2人とも、料理人が毒をいれるような怪しい行動はしていなかったと証言している。
また、紅茶を運んだ侍女も、お部屋の前までメアリーと、その世話係のアンナと一緒だったという。
なるほど、とホームズが呟く。
アンナは真っ青な顔を下に向け、
時々涙を拭いながら話した。
家庭教師という役職にはとても似つかわしくないほど、気が弱そうで、つついたら今にも壊れてしまいそうな人だな、とレストレードは思った。
また、それほどに、彼女にとって今回の事件は相当ショックだったのだろう、とも。
ゆっくりでいいですよ、
と付け加えて、ホームズが質問を投げかける。
このお屋敷では、毎日決まって午後の2時にティータイムがあるのだという。
また、アンナは下を向いて鼻を啜った。
ホームズがにこやかに促す。
アンナは立ち上がり、無言で一礼した。
そして彼女が部屋を出ようと、
ドアノブに手をかけた瞬間ー。
ホームズがアンナに向かってそう言った。
その時、あからさまにわざとらしいホームズの言い方よりも、あからさまに体をビクリとさせたアンナの姿が、レストレードは気になった。
アンナは振り向いて、ホームズの方をおずおずと見る。
ホームズはその切れ長の瞳をまっすぐアンナに向ける。
先程の射抜くような鋭い目とは違い、
少し目元を緩めたその表情は色っぽい。
取り調べ中に何をやってるんだこいつは、と、
レストレードは呆れた。
しかし、アンナの反応は面白いことに、ホームズになびくことなく、むしろ余計に怯えた表情をさせたのだ。
アンナはもう一度一礼し、そそくさと部屋を出た。
レストレードの頭にはハテナが浮かんでいる。
その答えに満足したのか、ホームズは笑う。
ホームズが言い終わる前に、
ガチャりと部屋の扉が開いた。
そこに、
自身の背より少し高いドアノブに背伸びをして手をかけながら、ハニーブロンド髪を揺らし、
大きなテディベアを抱き締めた少女が立っている。
つづく
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。