「アンナ」
と呼ばれたその使用人の女性は
ホームズに向き直り、
「ああ、それなら。」とレストレード。
ちらりとホームズは横目でメアリーを見る。
そしてすぐに目線を戻し、
その場にいた使用人たちは、
「もちろんです」と、みな頭を縦に振る。
オーランド一家は代々リーズべット伯爵家に仕えている一族だそうで、事件当日も、2人は伯爵と共にシティに出かけていたらしい。
一人娘のメアリーと、
彼女の世話役の若い娘、アンナ。
アンナは第一発見者である。
使用人長のガーネット、そして、毒が検出されたティーカップを運んだ使用人のスーザン。
事件当時、1階のダイニングでディナーのテーブルセッティングをしていたという使用人のマゼンダとポーラ。
そのダイニングのカウンターキッチンで、
紅茶を淹れた専属料理人のジェイ。
目を閉じながら一人一人の名前を聞いていたホームズは、ゆっくりと目を開ける。
瞬間、一気にホームズの纏う雰囲気が変わる。
毎度の事ながらゾクリとするな、と、
レストレードは思った。
ホームズのスイッチが入ったのだ。
切れ長の目が鋭く光り、
その瞳の前では、なにも隠せない。
心の中さえも見透かされていそうな気分になる。
シャーロック・ホームズvs10人の容疑者
レストレードは上着の襟をキュッと正してから、
ホームズと共に別室へ向かった。
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ホームズとレストレードの向かいに、
ゲルニアとアズヴィンが座る。
そう述べる伯爵の執事、ゲルニア。
きっちりと固められていたであろう白髪混じりの髪は、前髪がすでにパラパラと解れてしまっている。
ゲルニアの弟であり、
伯爵の秘書であるアズヴィンは、
隣でうっすら涙を浮かべながら俯いていた。
ホームズはちらりとレストレードを見る。
するとレストレードは頷きながらゲルニアの話を肯定する。
ホームズの問いに、ゲルニアは黙り込む。
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と、口を開いたのはアズヴィン。
ちなみに、とホームズは少し前のめりになりながらゲルニアを見た。
2人はホームズとレストレードに深く頭を下げ、
部屋を出ていった。
つづく
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。