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その場にいた全員が、
ホームズの言葉にひっぱられるようにして、
アンナの方に顔を向けた。
驚き、悲しみ、怒り、
といったそれぞれの表情を浮かべながら。
「待ってください」とアンナが1歩前に出る。
「リーズベット家は終わりだろう。」
幼いながらもその意味を感じ取ったのか、
メアリーの腕から、くまのぬいぐるみがするりと床に落ちる。
メアリーの瞳から、
さらに大粒の涙がぽろぽろと流れ出した。
子供らしく、
年相応に声を上げて泣きながら訴える姿を見て、
ようやくメアリーが「我慢していたもの」が解かれたようにホームズには思えた。
まあ、
彼はそのためにわざと意地悪を言っているのだが。
メアリーはキッとホームズを睨みつけると、
ホームズはそれを逸らすことなく見つめ返す。
父親が犯人ではないという、揺るぎない思いが
そのホームズの真っ直ぐな瞳の前に
徐々に不安定になっていくのをメアリーは感じた。
「この人は本当のことをいってるのではないか」
彼の強い瞳を見ていると、
そう錯覚してしまうのだ。
不安になったメアリーは、
本意なのか不本意なのか・・・
母親を殺した容疑者に名が上がったアンナに
縋った。
それは
いつものように、ごく自然に。
しかしアンナはというと、何も答えずに、
しばらく下を向いて黙ったままだった。
メアリーはそれが突き放されたように感じたのか、また泣き出す。
押し殺すように声も上げず、ただ流れる涙を何度も何度も拭うその姿があまりにも痛々しくて、レストレードは見ていられなかった。
そして、そう思っていたのは、
レストレードだけではなく・・・。
アンナは「もうだめ」と
苦しそうに一言そう呟くと、
痺れを切らしたようにメアリーの元へ駆け寄った。
アンナがメアリーに手を伸ばした瞬間、
一瞬ホームズとレストレードが
左の胸ポケットに手を突っ込んだが、
メアリーを抱き締め、
涙を流し始めたアンナを見て
2人はそっと手を下ろす。
...
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つづく
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。