「いやいやいやいや。俺が買えるから大人向け、って訳じゃないだろ。」
『まあそうですけどねえ…』
そう言ってそいつは不敵な笑みを浮かべる。
『これね。貴方さんの”感情が見える”んですよ。』
「は…?感情?」
感情という言葉に違和感を覚えるのは、俺以外滅多にいないだろう。
日常の中でまあまあ使う言葉だ。不思議に聞こえてもおかしくはない。
俺が違和感を感じているのは”感情を売る”って事。
感情の売買なんて聞いたことすらないし、ましてや見えたことも無い。
『あれ?お悩みのようで。でもまんまの意味なんですよーいやあすみませんねえ』
そう言ってそいつは頭を軽く掻く。
「…色が違うのは何故だ?」
これもまた不思議に思っていたことの1つ。
数色ならともかく、何十色もある。
『そりゃあそうでしょお客さん。感情の数だけありますから。』
『たとえ、嬉しいものじゃなかったとしても、ね。』
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!