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第3話

真紀がこぼした理由。
33
2019/04/11 12:37
もしかしたらいるのかもしれない。
舞は街灯を頼りに小さな細い道を全力で走った。
着いたところは舞たちが通っているダンス教室。

植田 舞
やっぱりね。
原田 真紀
なんだよ…ってあれ?舞!どうしたんだよ!こんな遅くに!
植田 舞
もしかしたらって思って走ってきたら教室の電気ついてたから。あ、これはいるな。って確信した(笑)
息が上がって立ち止まっていた時、真紀が踊る「君へ」という曲が聴こえてきた。電気もついていた。
こっそり見ていると、足を前後に開き、柔軟をしていた。真紀も基礎からしっかりやる人なのだ。
植田 舞
体、力んでるの?
原田 真紀
なんか違和感があってさ。夜遅くまで悪いと思うが、コーチにお願いして開けてもらってるんだ。
植田 舞
そっか。私も… 私も!一緒に練習していいかな?
原田 真紀
おう!着替えてこいよ!
植田 舞
うん!待ってて!
真紀はCDプレーヤーの中からディスクを取り、「桜」をセットした。そして、スタジオの床をモップで1度掃除した。
それだけでも、舞が笑顔で気持ち良く踊れたらいい。そう思い、舞の帰りを待った。
植田 舞
うわお、床ピカピカだね(笑)
原田 真紀
だろ?俺が掃除してやったんだ。
植田 舞
ありがとう!すごく気持ちがいいよ!
そう。これこれ。
この笑顔が俺の力になる。舞の清々しい笑顔と汗は俺の活力となり、演技により一層力強さが出るような気がする。
これを目指したい。笑顔にさせたい。
原田 真紀
じゃあ、最初から。
植田 舞
うん。
舞は、オーディションで踊った内容と同じ演技をした。
ジャンプは決まった。綺麗だ。
だけど何か違和感を感じた。舞はこんなもんじゃない。もっと美しく、華麗なダンスを見せてくれるはずだ。
原田 真紀
舞、何かあったか?
植田 舞
はあ、はあ…えっ?何かあったって?
原田 真紀
今日のダンス、変。
何か違和感を感じるんだが。
植田 舞
え?あー、なんでもないよ!
今日はちょっと調子悪いみたい!!
原田 真紀
そ、そうか。
ならいい。次は俺が踊る。
誤魔化したな。
舞は思ってることが顔に出やすい。
きっと自分では分かっていないのだろう。

心配だ…。これで演技に支障をきたすのはいけないな。
植田 舞
あ!待って!
原田 真紀
ん?
植田 舞
真紀、本当は…嫌なんじゃないの?
ペアで踊ること。2人で踊ること。
そう唐突に聞かれ、正直戸惑った。
みほらと踊るのはとても相性がいいと思う。他の人とペアを組むとなっても、間違いなくみほらと組むだろう。

しかし、そう言ってはいけないと思った。
舞は今、そんな答えを求めていない。
きっと俺がペアとして踊るのが楽しいのか、嫌なのかが知りたいのだろう。舞は気にして
くれていたのだ。
原田 真紀
俺は…もう別に構わないと思っている。
気持ちを切り替えて大会までペアの練習を増やそうと思っていたところだ。
植田 舞
そう…
私にはそうには見えなかったから。真紀が、何か無理しているような感じがしたから。
原田 真紀
俺は、ペアで踊ることが嫌いだったから。
無理だと思ってたんだよ…。
そう。それは俺が中学2年生の頃。
ーーーーーーーー🌙ーーーーーー
原田 真紀
ペア…?
小倉 優太
おう!ペアで出てみないか?俺と!!
原田 真紀
やだよ…
小倉 優太
なんでだよ!!真紀は上手いだろ!!
俺なんて個人のレギュラーにも入れさせてくれないんだぜ!
ペアだけが…!俺、ペアならできる気がすんだよ!この通りだ!お願い!!
中2のとき、親友だった優太が俺を呼び出し、あんなことを言った。
正直、ペアで出るのは嫌だった。俺は個人で出たい。プライドがそう言っていた。

だが、親友が目の前で頭を下げている。
俺は「考えてみる。」とだけ告げ、練習に戻った。
これが俺の判断だ…。間違っては…いないはずだ。
練習を一段落終え、俺は優太のもとへ向かった。
自分の気持ちを伝えよう。しっかりと。
原田 真紀
おい、優太。
小倉 優太
決まったのか?
原田 真紀
ああ。
俺、やっぱりペアには出たくない。
小倉 優太
なんでだよ。
原田 真紀
何かまだ分からない…。自分のプライドが許さないんだ。
優太だから嫌なわけじゃない。誰と組めと言われても俺はペアでは出ない。
小倉 優太
お前ふざけんな!!!
何が「分からない」だよ!!
そんなんじゃ俺、納得いかねぇ…
そんなあやふやな返事なんて期待してなかったのに…!
グッと胸ぐらを掴まれ、引き寄せられる。
優太と怒鳴り声が体育館の中に響く。
いつもと違う、優太の鋭くて獣のような視線が嫌に痛かった。
原田 真紀
は?お前が決める権利がどこにあるんだよ。
ふざけんなはこっちのセリフなんだけど。
俺がやりたいことは俺が決める。お前なんかに関係ねぇ。
小倉 優太
俺たち友達じゃなかったのかよ…。ライバルじゃなかったのかよ!!!
俺はお前を信用してた!!!だからペアに誘ったんだよ!!
なのに…お前には関係ないって…
胸ぐらを掴んでいた手の力が抜けていく。
優太の目には涙が溜まっていた。
小倉 優太
お前なんか…もう信用しねぇ。
帰れ。もう友達じゃねーよ。
原田 真紀
まっ…優太!!!
俺は優太に何を言ったのか、ひとつも覚えていなかった。
ヤケになってしまっていたのだ。

優太は俺と一緒にダンスを始めてくれた。
きっと2人で1人だったんだ。ずっと小さい頃から。
原田 真紀
友達…ってなんだ?
親友と必ずペアを踊らないといけないのか。
相手の気持ちなんかを気にしないのはダメなのだろうか。
自分は自分だ。それは変わらない。

自分ってどんなやつだろう。

自分がわかってないのによく優太にああ言ったよな、俺。
原田 真紀
俺、いけなかったみたいだ。
雨宮 さらら
ん?どういうこと?
原田 真紀
優太を怒らせた。俺の自己中心的な考え方で。
雨宮 さらら
え!?優太くんと!?
あんなに仲良いのに…
次の日、さららに相談してみた。
さららは、良き相談相手として小さい頃から付き合ってきた。
しかし、優太とのケンカは余程珍しかったらしく、目を丸くして聞いていた。
原田 真紀
俺、ペアには出たくなかったんだ。だけど優太が一緒に出ないかって。
だから俺その時言ったんだよ!俺のことは俺が決めるって。
雨宮 さらら
なんでペアに出たくないの?
原田 真紀
わ、わかんない…
雨宮 さらら
それが怒らせた原因だって!
あやふやな返事は期待してないと思うよ!
あ、同じこと言った。
そんなの知らねぇよ。
どう思おうが俺の勝手だろ。

「わかんない」

今更返事に後悔しても遅い。
答えをつきとめるのも辛い。

原田 真紀
…どうすりゃいいんだよ
さららにお礼を言って別れた。
1人になりたかった。
駆け足で帰ろう、そう思った時、ブレザーを忘れたのに気づきサッと校舎に戻った。
原田 真紀
ゆ、優太…?
大きな怒鳴り声が聞こえたので声の先へ行ってみると、優太が2,3人の男子と殴り合いをしていた。
顔には傷やあざが沢山できていた。

「もうお前なんか信用しねぇ。」

優太はその男子に当たっていたのだ。昨日のことを。
痛いだろうけど、涙を堪え相手を殴っている。
小倉 優太
バカだ…あいつはバカだよ…!
原田 真紀
優太…
小倉 優太
俺の友達は誰だよ…
お前しかいなかったのに…!
離れたらどうすんだよ!!!
このっ……!
何も言えず、1歩が出ず…
俺は柱の影に立ちすくんでいた。

そのまま家に足が向いてしまった。

ーああ、俺は悪いヤツだ。

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