【 side : あなた 】
あなたの推しの視線が、再び私たちがいる方へと移る。
今度はゆっくりと、確かめるように。
光の強いステージから
暗い客席がどれくらい見えているかはわからない。
だけど私は、今度は目を逸らさなかった。
今、彼から目を逸らしたら私はまた、
「あなたの推し」から逃げてしまう気がして。
心臓が喉の奥でドクドクと大きく鳴っている。
私は手に持ったペンライトをぎゅっと握りしめた。
マイクを持っていない方の手を額に当て、
ライトの反射を遮って客席を見つめるあなたの推し。
その視線が、ゆっくりと
ステージと平行にある注釈つきの客席を捉える。
その瞬間、
他のメンバーのマイク越しの声も、
客席の歓声も全部、遠のいた。
ただ、私の視界にはあなたの推しだけが映っていた。
汗で濡れた髪。
小さく息を整えるように薄く開いた唇。
何かを探すみたいに揺れる瞳。
久しぶりに正面から見るあなたの推しは、
こんなに遠く離れていても、やっぱり綺麗だった。
そしてあなたの推しのその瞳が──
一瞬、私をかすめた気がした。
だけどあなたの推しは一ミリも表情を変えずに
視線をステージ中央のメンバーたちへと戻した。
それはちょうど
メンバー全員のコメントが終わった時だった。
あの日、私の手を握ってくれた彼の手には
マイクが握られている。
あなたの推しはそのマイクを口元へ運んだ。
あなたの推しのその一言で、再び会場が熱気に包まれる。
隣のマリーも楽しそうにペンライトを揺らしていた。
画面にはあなたの推しの所属グルのメンバーたちが
次の曲の定位置に着く様子が映っている。
だけど私はあなたの推しから
目を離すことができなかった。
メインステージの中央で定位置についた彼の横顔は
さっきまでよりほんの少しだけ柔らかかった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。