第69話

🌲 Day 68.
3,793
2026/07/12 14:29 更新
【 side : あなた 】


あなたの推しの視線が、再び私たちがいる方へと移る。


今度はゆっくりと、確かめるように。




光の強いステージから
暗い客席がどれくらい見えているかはわからない。





だけど私は、今度は目を逸らさなかった。




今、彼から目を逸らしたら私はまた、
「あなたの推し」から逃げてしまう気がして。





心臓が喉の奥でドクドクと大きく鳴っている。

私は手に持ったペンライトをぎゅっと握りしめた。




マイクを持っていない方の手を額に当て、
ライトの反射を遮って客席を見つめるあなたの推し。


その視線が、ゆっくりと
ステージと平行にある注釈つきの客席を捉える。







その瞬間、


他のメンバーのマイク越しの声も、
客席の歓声も全部、遠のいた。



ただ、私の視界にはあなたの推しだけが映っていた。





汗で濡れた髪。

小さく息を整えるように薄く開いた唇。

何かを探すみたいに揺れる瞳。





久しぶりに正面から見るあなたの推しは、
こんなに遠く離れていても、やっぱり綺麗だった。







そしてあなたの推しのその瞳が──


一瞬、私をかすめた気がした。








だけどあなたの推しは一ミリも表情を変えずに
視線をステージ中央のメンバーたちへと戻した。



それはちょうど
メンバー全員のコメントが終わった時だった。






あの日、私の手を握ってくれた彼の手には
マイクが握られている。


あなたの推しはそのマイクを口元へ運んだ。


あなたの推し
さあ、そろそろ次の曲に行きましょうか!




あなたの推しのその一言で、再び会場が熱気に包まれる。


隣のマリーも楽しそうにペンライトを揺らしていた。




画面にはあなたの推しの所属グルのメンバーたちが
次の曲の定位置に着く様子が映っている。




だけど私はあなたの推しから
目を離すことができなかった。







メインステージの中央で定位置についた彼の横顔は
さっきまでよりほんの少しだけ柔らかかった。

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