僕は目が覚めるとベットの上にいた。
駄菓子屋でノロマくんと話して、うましかさんがいなくなったということを聞いたところまでは覚えている。
でも、家に帰った記憶も、それからの記憶もない。
夏休みの宿題は机にばらまかされていて、その上にはスマホが置いてあった。
スマホを開き、通知センターを見ると、メールが一通。
『今日、山で待ち合わせね。あほくん、ノロマくんは連れて来ちゃダメだよ。』
ノロマくんの顔が脳裏でちらつく。
真夏の太陽のようにノロマくんが言った言葉が焼き付いて離れない。
まるで焦げたように変な匂いを漂わせて、真っ黒に染まっていた。
「……わからないなぁ。」
知ってるようで知らない、うましかさん。
いつも笑ってるけれど、その裏側には何かが隠されていそうな気がする。
そう、言うならば少女漫画のヒロインが悪女に虐められている時に登場するかっこいい男の子の後ろに隠れるヒロインのような、弱々しい、そんな感じの。
『わかった』
その四文字を打つのに、十分はいるはずだった。
僕はいつの間にかそう打っていて、メールのアプリを閉じてから思った。
あの時うましかさんは、〝女の子を救った〟と言っていた。
けれど、ノロマくんは死んだと言っていた。
僕的にはノロマくんの情報が合っていると思う。あのノロマくんだ。嘘をつくわけがない。
「…難しい。」
とにかく難しい。
女の子を救った、と死んだ、は全く逆の意味。所謂対義語という。
直接うましかさんに訊けばいいじゃないか。
そう思い、メールを開き“♡”を開く。そして下のメッセージを打つ欄をタッチすると、ひらがな打ちのキーボードが出る。
『女の子、本当に救ったの?』
いつもならメッセージ即読みのくせに。このメッセージだけは全然読んでくれないんだ。
そんな悲しい思いがあることに気付き、首を振る。
本当に、どうでもいいのに。
僕は少し自分に驚きつつ、携帯は机の上に置いた。
すると、ピコンという音と共に携帯が光る。通知センターにはお馴染みうましかさんのメール。
僕はその通知をタップする。パスワードを入力するとメール欄へと飛ぶ。
『救ったよ。』
うましかさんはどういう顔でコレを打ったのだろう。
悲しい顔?困ってる僕を楽しむ顔?ニンマリと、にっこりと笑っているの?それとも、泣いているの?
……って、あのうましかさんだ。泣くわけがないだろう。
僕は自分の頬を叩く。手はひんやりとしていた。目玉焼きを焼くフライパンに手をやる程熱くはないけど。それでも自分の手は冷たく、気持ちよかった。
久しぶりに、と外に出て近くの神社へ向かった。
狐の神様だったら、とちょっと悪ふざけ半分で油揚げを手に持って。
「あついなぁ…」
今日の気温、26度。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。