第3話

あやとり
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2020/12/20 05:41
僕は起きて早々、駄菓子屋に来ていた。
理由は、妹が風邪を引いて、治ったらねり飴食べたいと言ったからだった。

母さんは妹の看病をしなきゃいけないし、父さんは急に仕事が入って不在。
行けるとしたらベットでうましかさんとメールしてた僕くらいだった。
何で起きてるのバレてたんだろうなんて思いつつ足を一歩一歩運ぶ。
まだ起きて間もないからか足が重くおぼつかない。
視界も少し眩しくて白く見えるし、今度からは顔を洗ってから出てこようと思う。

ブーッと音を立てて振動する携帯を手に取り、通知センターを見るとうましかさんからだった。
うましかさんは“♡”という名前に設定していて、本名を入れないタイプか、と思った。

『やっほ!今どこにいるの??私?私はねー今川にいるの!さっき川で溺れてる子がいてね、殺しちゃうかと思って怖かったよ…あ、ちゃんと助けたよ!!私偉い!!その子のお母さんからたくさんお菓子貰っちゃった!!山に行く日、一緒に食べよーね!!』

僕はそのメールを見て、あの人らしいと思った。
わざわざすごい事を自慢してきて、褒められようとする。

普通の人ならさりげなくとか隠してとかだと思うけど、うましかさんは本能に従うタイプだと思った。

タイプタイプと人を決めつけるのが僕の悪い癖。
人は結構簡単に分けられるから、僕はそのどこの類に入るのか定めるのが結構好きだったりする。
駄菓子屋に着いて、ねり飴を探す。
ねり飴が置いてある所を見つけ、ねり飴を手に取ると、隣にパチパチするお菓子があった。

よく食べてたなぁ、懐かしいなぁという気持ちでそのお菓子も手に取る。
他にも懐かしいお菓子が沢山あって、駄菓子屋って意外と楽しいかもなと高校生にもなって思う。
すると、トントンと肩を叩かれた。


「あほくん、やっほ」
「……あぁ、君か。」

にぱっと笑いながら毒を吐いてくるコイツは、ノロマくん。
行動がいつも遅く、マイペースな為にノロマくんと呼ばれている。

本名は知らない。僕はそういうことは気にならないタイプだ。
ノロマくんは顔がいい。そこにいる女子高校生がノロマくんを見てキャーッと声をあげていた。

「あほくん、なんで駄菓子屋をたくさん買っているんだい?うましかさんとどこかへ行くんだね?」
「あぁ、そうだけど…」



ノロマくんは、少し変わった喋り方をする。
ヒョロヒョロだけれど引き締まった身体に高い運動神経。
全国模試で一位を取るほどの頭脳に、綺麗に整った顔面。

そんな彼だからこその喋り方なのだろう。
僕には到底理解できないし、うましかさんなら変な方向へ思考を持っていきそうだ。


「あほくん、俺も連れて行ってよ。気になって仕方がないんだ。」
「なにが?」
「君達、あの山へ行くのだろう?あの山には沢山の噂があってね」




ノロマくんから聞いた話はこうだ。


①あの山には神様がいて、その神様はこの世の全ての神様のトップ。
②あの山の奥に潜む洞窟の中は水びたしで奥に進むと謎の祠が建っている。
③あの山に行くと死ぬ。


「なるほど…一とニはまだ理解ができる。だけど三は理解ができないな。僕も山に何度も行ったけれど、そんなことなかった。」
「そうなんだ。因みに俺もだよ。だから確かめてみたいんだ。あほくん、手伝ってくれるかい?」


僕はノロマくんが出した手を握った。

ねり飴とパチパチとガムを買ってレジ袋に入れる。
ノロマくんからエコバック持ち歩きなと言われたけど、正直持ち歩くの面倒。
無駄にオシャレなのが多くて、どれ買えば良いのか困るし。

ノロマくんと別れて、僕はその足で山へ向かった。
山へ踏み入れるなり、さっきまで静かだったのに唐突に蝉が鳴き出す。
烏も木からバサバサッと百羽弱飛び、カブトムシやクワガタも空を飛んだ。
僕はその光景を見て、驚いていた。
ピッタリだった。まるで、僕がこの山に踏み入れる事を恐れているかのように。


「なんだ、これ…」


そう思っていると、ポッケに入っていた携帯が鳴る。
僕は突然の音に静かに驚き、未だに止まない激しい心音を聞きながら携帯を耳にあてる。

連絡してきた人の名前なんて見てない。
誰だろうなんて思いながら「もしもし」と二文字を繰り返した。

『もしもし、俺だよ、ノロマくんだよ。うましかさんが失踪したらしいんだ。』
「…あ、それなら川にいるって言ってたよ。うましかさん、今日メールを送ってきたんだ。」


そう言うと電話先から「はぁ?」と言う声が聞こえた。
そして、



『なに言ってるんだい。うましかさんが居なくなったのは、もう一週間前の話だ。君は一ヶ月前からうましかさんと仲が良いだろう?山に行く話も、学校でしていたじゃないか。』



うましかさんは確かに今日、メールを送ってきた。
元気すぎて逆に面倒になるような内容のメールを。

そう思っていると、ノロマくんはその気をまるで知らず、話を進めた。



『あと、山に行くのはやめよう。その山で今日、男の子が川に溺れて亡くなったらしい。あまりそういう所に近寄るものじゃないからね。』

その話には少し、聞き覚えがある。
確か、うましかさんが言っていた内容のような……

そう思ったけど、うましかさんは失踪中。僕の幻だったんだ。きっと。

そう、そうだ。
興味深くなんてない。気にならない。うましかさんなんて、ただの他人。
僕には関係がない。僕があの人を気になる意味なんてない。なにもない。メリットもデメリットもない。


「わかったよ。」


僕の足元には一つのあやとりが落ちていた。

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