前の話
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部屋の中に広がる、紅茶と微かな甘い香り。
"私"は小さな木製のテーブルに置いてある紅茶を飲みながら、大きな白い皿に乗ったクッキーやマフィンに手を付ける。
優雅で落ち着ける、この時間は嫌いじゃない。
たった2人しかいない、この無駄に広い洋館は、人間の世界と死の世界の狭間にある……らしい。よく分からないのだが、「その方が人間に見つからないし、魂を運びやすいだろ?」この館を作った"彼"はそう言っていた。
ティータイムを楽しんでいる私の目線の先には、翼の生えた彼がふわふわと浮かんでいる。その姿を見る限り、翼は飾り物にしか見えない。
そんなことを考えていると、彼がじっと見つめていることに気がついた。………きっと、いつもの仕事の話だろう。
その言葉に反応した彼は、悪戯な笑みを浮かべながら、私に近づいてきた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!