翌日、男達がいなくなるとユズが来た。
名前、って…一応あるんだよね…?
私がそんな顔をしていたのか、ユズが…
真……、夜霧真、かぁ…。うん。
そう言って、ユズはいなくなる。
そのとき、私はこれからを"真"として生きることを決めたのだった……。
月日が経ち、私も少し大きくなる。
ユズと会った時は暖かかったけど、今は暖かいって言われたら暖かいけど、少し肌寒い。
少し寒いから今は夜だと分かった。
いつもより明るい…?
檻の中はいつもの真っ暗とは違い、少しだけ明るいような気がした。
周りをキョロキョロと見ると、いつもなら閉まったままのカーテンが今日は開いている。
檻の中に差し込んでいる光は赤く見える。
私は赤い何かに惹かれるように立ち上がると、重たい枷を引き摺りながら、檻の中でも赤い光が当たる場所に向かった。
ゆっくりと枷のない方の手を檻の外の窓から差し込む光へと伸ばす。
ドクン…ッ……。
心臓が大きく跳ねるのを感じ、私は手を見ていた顔をパッと窓の方へと向けた。
私の目に入ってきたのは…
赤い、朱い、紅いまんまるのお月様…。
心臓の動きが速くなり、身体が一瞬で熱くなる。
呼吸は乱れて、小さく呻き声を漏らしながら、その場にしゃがんだ。
震える両手を見ていると、前に垂れてきた髪が視界に入る。
それは…黒いはずなのに真っ白に染まっていた。
……どんなことでも出来そう。
何故かそう思えた。
もう一度、顔を上げると、紅い月が見える。
その月は私がいつも流すような血の色をしていて…とても綺麗だと思った。
無言で立ち上がると、檻の入口の方向へ。
ジャリン!
鎖の長さが足りずに、伸び切った状態で私のことを止めた。
私は手首を見ると、片方の手で鎖を掴む。
そして、そのまま……引きちぎった。
鎖が短くなって腕が軽い。
檻も掴んで引っ張ると、少し力はいるみたいだったけど、檻の入口の鉄格子も取れた。
檻の外の部屋に鍵がかかっていないのは知ってる。
裸足で床を歩き、扉を開ける。
広がるのは私の初めて見る世界。
空は真っ暗だけど、沢山の光の点と血のように紅いまんまるお月様が浮いている。
これが外の世界……。
立ち止まっていると……
見回りに来たのか男の人が私を見て騒ぐ。
お空を見たりすると、慌てだした。
3人の内の1人が走っていなくなった。
他の2人が警戒するようにナイフを私に向ける。
私は改めて、空を見た。
紅いまんまるお月様が私の心臓を痛いくらいに速くする。
ねぇ、私は何で狭い世界にいたの…?
どうして、大人は私を殴ったりしたの…?
何でこんな暗い場所に閉じ込めてたの…?
そんなの…そんなの……
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。