1番言われたくないセリフだった。
能力にさえ目覚めなければ、あの時彼に何も聞かなければ、能力によって孤立していった時からずっと考えていた2つのこと。そして、このセリフを言われなければ、いつか“能力をなかったこと”にできる…なんて少しだけ考えていた。
(今でも、私のことが好きだったら…?
…そんなこと…そんなこと…。)
彼に聞こえたか聞こえなかったか分からないくらい小さい声でぽつりと呟く。
その瞬間、この場からとにかく立ち去りたくなる。
(…逃げなきゃ…。)
これ以上、彼の近くにいると頭がおかしくなってしまいそうだった。
彼が私の名前を言った瞬間、私は一目散で彼に背を向けて出口へ走った。
(こんな能力なんて!大っ嫌い!!)
……
(昨日はあんまり寝れなかったな…。)
あれから、どうやって家に帰って来たのか分からない。
何をしても、彼の言葉を思い出してしまう。
それでも、教室の自分の席に座ってもいつも通り、私の周りには誰も寄り付かない。
いつの間にか朝礼が始まる時間になっていたらしく、教室には担任の先生が入ってきた。
(転校生…?
……どうせ私には関係ないか…。)
転校生が来ようと、私の周りは何も変わらない。
(………………は?)
転校生として教卓の後ろに立っているのは紛れもなくあの“春芽陽”だ。
(なんで!?転校生って?どういうこと?)
そういえば、彼は小学校入学前に家族の転勤で引っ越していた。高2なって戻ってきたってことは…。
(……今日から私、どうなるの?)
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。