直也くんが、私と祥平くんを交互に見る。
私は、2人から目を逸らしてしまった。
なんて言えばいいのかわからない。
直也くんの言葉に祥平くんが目を見開いた。それから頭を抱える。
直也くんが私を見る。祥平くんはため息をついた。
二人の視線が私に集まる。
なんて言うべきか迷う。……そのまま言うしかないよね。
ポカーンとする私と祥平くん。すぐに祥平くんが笑い出した。
直也くんのおかげで暗くなりそうな雰囲気は無くなった。
祥平くんはウェアのポケットからスマホを取り出す。
私と直也くんもその画面を覗き込む。よくわからないけど、ピンみたいなのがいくつか立っている。
私は返事をする代わりに頷いた。
にっこり、今度はうまく笑えてるはず。この嬉しい気持ちは本当だから。
公園を出て三人並んで歩く。
近くの美容院から順番に行くけど、なかなか空いてるところはない。
祥平くんが予約なしで当日の美容院は割と難易度高いと教えてくれた。
それでも、四店舗目でいい雰囲気の場所を見つけた。
扉に手を掛けた直也くんの腕を祥平くんが掴む。
二人の優しさが身に染みる。
扉を引いて中に入る。
カランコローンという音が出迎えてくれる。
奥からおねえさんが出てきた。茶髪のショートカットで毛先がカールしている。おねえさんの動きに合わせて毛先が踊る。
私がぺこりと頭を下げるとおねえさんが笑い出した。
入ったはいいものの、どうすればいいんだ。他にお客さんはいないみたいでホッとしたけど。
おねえさんに勧められるままに、大きな椅子に座る。
おねえさんが私の首回りにナイロン製の布を優しく巻く。
おねえさんがカタログを見せてくれるけど、どれも可愛く見える。
おねえさんが霧吹きで私の髪を濡らすと梳かしはじめた。
☆ ☆ ☆
少し上下に揺れてみると、鏡の中の私の髪が踊っている。
初めて髪を切って、スッキリしたような感じがする。
お会計を済ませて、何回もおねえさんに頭を下げながらお店を出る。
カランコローンという音に見送られる。
外に出ると、すぐ近くの木陰で二人が待ってくれていた。
私に気付いた二人が驚いているのがわかる。
祥平くんの直也くんへのフォローが私に追い打ちをかける。
指で髪を梳くとなんの抵抗もなくスーッと指が通る。
また二人の視線が私に集まる。
そうして、私は二人とともに時間が許す限りいろんなお店を見て回った。
お店の説明をする祥平くんと適当な情報を入れてくる直也くんの二人のやりとりが面白くて笑ってばかりいた。
ちょっとだけ、ほんの少しだけ、もっとこういうことしたかったなって思ってしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。