第281話

引越し 及川徹
10,978
2022/05/03 12:00

「あなた…」


しゅん、と下を向きながら

お別れと手紙と花束を渡す徹。



『徹~!下向かないで!永遠のお別れじゃなぃだから!』


「でも…」



徹が口をもごもごと動かす。


そうだよね、宮城と東京だもんね。

遠すぎるよね。


唇を噛みしめ、涙をこらえる。


『ほーら!笑って笑って!どうせ、lineとかで繋がれるでしょ!』


「そうだ、ね。…元気でね…!」



涙ボロボロ、鼻をすすりながら、無理矢理笑う徹。


やめてよ…


『こっちまで…泣きたくなるじゃんか…っ』



私の小さく呟いた声は、青空に溶けていった。



すると、電車の発車のベルが鳴った。


『ごめん!いくね!』


「あっ」



徹が私の腕を掴もうと伸ばした手を、するりとかわし


電車に乗った。



目の前で、ドアが閉まって____




『徹っ!!』



気づけば、狭くなったドアをすり抜け電車から降りていた。



ぎゅっと徹に抱きつく



「あなたっ…電車は…」


『いいっ…もう…っ、いいの…!』



私はここにいるよ、徹はここにいるよ



自分に言い聞かせるが、涙と嗚咽が止まらない。



「…俺んち、来る?」


『…っ、ぅん…』



乗る予定だった電車が、どんどん離れていく。









私は、宮城にいたい。






徹のそばに、いたい。




引っ越しなんて、しない。






誰が反対しても____。

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