第277話

俺にしねぇ? 岩泉一
10,570
2022/04/22 12:00

『っうぅ…………っひっく…………』





放課後の教室に、誰かのすすり泣く声が溶けていく。



ったく、鍵閉めてぇのに誰だよ。


週番なのに…。





「おい、鍵閉めるから____って…あなたか?」





ビクッと肩を震わせ、顔を背ける奴。



どっからどう見てもあなたなのに違う、と言わんばかりに壁に顔を向けた。





…ったく、世話が焼けるな。




「どうしたんだよ。泣くなんて。」




幼馴染みの俺ですら、こいつの泣き顔を見たことがない。




『泣いてなんか、なっい…。いいから、あっちに…っわ…』



無理矢理、手首を掴みコチラに顔を向かせる。


っげ、ひでぇ顔。目、腫れてんじゃねぇか。



「どうしたんだよ。」


『やっ、見ない…で…』



掴みあげた腕を引っ張り、抱き寄せる。



「十数年、一緒に居る俺にも言えねぇ事なのかよ。」



ピクッ。


あなたの肩が少し跳ねた。



『っうぅ……岩、ちゃん……私、私っ……』


「ゆっくりでいい。」



過呼吸になり気味のあなたの背中をさすると、ゆっくりと口を開きだした。




どうやら、数年付き合っていた奴が浮気した挙げ句、飽きた の一言でふられたらしい。



一瞬、クソ川の顔がよぎったが違うらしい。


とりあえず、腹が立ったから明日、クソ川を一発殴ろう。




『岩、ちゃ…私、…そんな……っ………うぅ…っ』


んだよ、そんな軽い奴より俺の方が____。



「あなた。」



少しあなたを引き離し、正面を向き合う。




「もう泣くなよ。」



親指で、涙を塞き止める。


『…岩ちゃん…っ』



「なぁ、俺だったらぜってぇお前を泣かせねぇよ?」



使いふるされた、クサイ台詞だと自分でも思ってる。


でも、お前に伝えるぴったりな言葉なんだ。




「だから、」







         「俺にしねぇ?」

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