あの日、私は吸血鬼たちの学校から
逃げるように家に帰った。
私が泣きはらした顔で家に帰ると父は説教もせず
ただ一言「心配したぞ」とだけ言った。
それからまたいつもの日常が戻ってきた。
一つだけ変わったのは、
大好きだったヨルがもうどこにもいないってこと。
明らからに落ち込んだ私を気遣ってか、
親友のはるかは何も聞かずショッピングや
カラオケに連れて行ってくれた。
でも、ぽっかりと開いてしまった心の穴は
誰にも埋められなかった。
そう言ってはるかは私にデコピンした。
────そして次の休日。
私は駅前ではるかを待っていた。
だけどそこに現れたのは
クラスの人気者、狭間くんで……。
スマホを取り出すとはるかから
メッセージが届いていた。
なるほど、強硬手段とはそういうことか。
そういえば誘われたとき、
何か意味深な笑みを浮かべていた気がする。
私の言葉にショックを受けたのか
眉尻を下げた狭間くんが少しだけ可愛く見えた。
知らないうちに色んな人に心配かけてたのかも
しれないな。
はるかにはいつも心配かけてるし、
その気持ちを台無しにはしたくない。
大型犬のように飛び跳ねて喜ぶ彼に驚いたけど、
なんだか少しだけ気持ちが軽くなった。
それから2人で、はるかと見る予定だった
映画を見たり、特大パフェが有名なスイーツ店
に行ったりして渋谷を満喫した。
何気なく街を散策していた時だった。
黒いフードを被った人影が路地裏に消えていった。
顔ははっきりと見えなかったけど、
それが誰なのか、私にはわかる。
なぜか勝手に身体が動いて路地の方へと駆け出す。
狭間くんは走り出した私の腕を掴んで
強引に引き止めた。
叫ぶように告げられた想い。
彼は今にも泣きそうな顔で私を見つめていた。
だってさっき気づいたんだ。
いくら他の人で心の穴を埋めようとしても、
ヨルを一瞬見ただけでヨルへの気持ちが
溢れ出してしまった。
私はどうしてもヨルが好きなんだ。
たとえどれほど時間が経ったって
その気持ちだけは変えられない。
そうだ。
私もこのヨルへの気持ちだけは
どうしても消すことはできない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!