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第30話

とある吸血鬼のお話
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2022/07/29 09:00


佐藤みくる
佐藤みくる
うぅ…
あれ?…ここは…

どこか見覚えのある無機質なコンクリートの部屋。

一つだけ置かれた簡素なベッドと
光すら入らない小さな窓。
佐藤みくる
佐藤みくる
ここは!

そこはいつか吸血鬼によって攫われた時、
閉じ込められた地下室だった。

慌てて起き上がると、くらりと目が回る。

ヨルのお父さんに血を吸われたからだろうか、
貧血で身体が重い。

そして霞む視界でゆっくりと部屋を見渡すと
黒い人影のようなものが転がっていた。
佐藤みくる
佐藤みくる
だ、誰!?
雨神ヨル
雨神ヨル
うっ…
佐藤みくる
佐藤みくる
ヨル!?

それはボロボロに傷ついたヨルだった。
佐藤みくる
佐藤みくる
どうしてここに…

身体を引きずりながらヨルの側へと駆け寄る。
まるで獣にでも襲われたかのような傷跡に息を飲んだ。

お腹からは血がドクドクと流れている。
雨神ヨル
雨神ヨル
ち…くしょう…
佐藤みくる
佐藤みくる
ヨル!しっかりして!
どうしてこんな傷…


するとゆっくりとドアが開き、
暗がりからヨルのお父さんが現れた。
ヨルの父
ヨルの父
そいつは貴様のせいでこうなった
まさか、吸血鬼の始祖である私に
勝負を挑んでくるとはな
雨神ヨル
雨神ヨル
てめえが…約束を…破ったから…
ヨルの父
ヨルの父
先に誓いを破ったのはお前だろう
家畜と同じ人間に熱を上げて
コソコソと見守っていたくせに…
雨神ヨル
雨神ヨル
…こ…いつには手を出すな…
ヨルの父
ヨルの父
はっ…くだらんな
お前など吸血鬼の名折れだ
トドメを刺してやろう


そう言ってヨルへと手を伸ばしたのを見て、
咄嗟に身体が動いた。
佐藤みくる
佐藤みくる
やめて!!
ヨルの父
ヨルの父
なんのつもりだ人間、そこをどけ
雨神ヨル
雨神ヨル
み…くる?


私は彼を庇うように、
吸血鬼の始祖の前に立ちはだかった。

不思議と身体は震えなかった。
佐藤みくる
佐藤みくる
ヨルは私の運命の人なの!
これ以上傷つけるなら私が許さない!
ヨルの父
ヨルの父
運命だと…?

一瞬表情が曇り、
ヨルのお父さんは蛇のような真っ赤な瞳で私を睨んだ。

それでも引き下がるつもりはない。
佐藤みくる
佐藤みくる
私、運命なんか信じてなかった
でもヨルと出会って分かったの!
佐藤みくる
佐藤みくる
どんな障害物があっても
たとえ会えなくても種族が違っても
彼と一緒にいたいって思えた!
自分を犠牲にしてでも
彼を守りたいって思ったの!
ヨルの父
ヨルの父
愚かな人間だ
貴様は知らないようだな
その運命の先に
何が待ち受けているのかを…
佐藤みくる
佐藤みくる
え…


真っ赤な瞳はどこか遠くを見つめ、
吸血鬼の始祖はゆっくりと語りだした。
ヨルの父
ヨルの父
とある吸血鬼の男がいた
そいつは孤独で、
心も喉も渇ききっていた
しかしある日、
そいつは『運命の人』に出会った…
その日からモノクロだった
世界が鮮やかに色付き、
何もかもが愛しく見えたんだ
ヨルの父
ヨルの父
吸血鬼は運命の人が持つ
夜空のような深く青い瞳を
永遠に見つめていたかった
そしていつの日か吸血鬼は
運命の人と共に生きるため、
人間だったその人を
吸血鬼へと変えることに成功した
ヨルの父
ヨルの父
しかし、あっけなく
別れはやってきたのだ…
佐藤みくる
佐藤みくる
別れ…
ヨルの父
ヨルの父
長い長いある夜、
吸血鬼になったあの人は
一人の赤ん坊を産んだ…
しかし、生まれてきた赤ん坊は
母親から吸血鬼の力全てを奪い
生まれてきてしまった…
ヨルの父
ヨルの父
そう、本来なら死ぬはずでは
なかったその人は
あっけなく死んでしまったのだ…

彼は悲痛な表情を浮かべ、
横たわるヨルへと視線を向けた。
ヨルの父
ヨルの父
お前さえ…
生まれてこなければ…


その震える声で、私は確信してしまった。

語られたお話の『とある吸血鬼』とは
きっと始祖である自分のことだったんだ。

そして失ってしまった運命の人は
ヨルのお母さんだろう。
ヨルの父
ヨルの父
失うくらいなら運命など、
ない方がいいのだ

吸血鬼の始祖が抱える心の傷は、
想像していたよりもずっと深いものだった。
ヨルの父
ヨルの父
そこをどけ、人間
今すぐそいつを
この手で殺してやる
佐藤みくる
佐藤みくる
い、嫌です!
ヨルの父
ヨルの父
何?
佐藤みくる
佐藤みくる
あなたがヨルを
恨んでいることは分かった
佐藤みくる
佐藤みくる
でも…ならどうして
今までヨルを殺そうとしなかったの?
チャンスならいくらでもあったはず!
ヨルの父
ヨルの父
っ…貴様に何がわかる
佐藤みくる
佐藤みくる
ヨルのお母さん
つまりあなたの運命の人が
命がけで残した大切なものが
ヨルだったからでしょ?
ヨルの父
ヨルの父
…っ!黙れ!


鋭い牙が威嚇するようにガチガチと音を立てている。

それは私を脅しているように見えたけど、
なぜか震えているようにも見えた。

そうか、この人はすごく悲しくて寂しいんだ。

私は思い切って一歩前に踏み出し、
ヨルのお父さんを抱きしめた。
ヨルの父
ヨルの父
…!?
どういうつもりだ!
佐藤みくる
佐藤みくる
きっと今、
あなたの愛する人も
こうしたいだろうなって…
思ったから…
ヨルの父
ヨルの父
……っ!

数秒間、しんと静まり返る。
そしてヨルのお父さんは強い力で私を突き飛ばした。
佐藤みくる
佐藤みくる
いたっ!
雨神ヨル
雨神ヨル
っ!!

尻もちをついた私をヨルが力なく抱きとめる。
佐藤みくる
佐藤みくる
ヨル…大丈夫?
雨神ヨル
雨神ヨル
ああ…

目の焦点すら合わないのに、
朦朧とした意識の中でも私を守ろうとしてくれている。
ヨルの父
ヨルの父
生意気な…もう、すべて遅い
致命傷を負ったそいつは
私が手をくださずとも、
もうじき死ぬだろう…
死にかけの馬鹿は貴様にくれてやる
佐藤みくる
佐藤みくる
ほ、本当ですか?
その言葉、撤回はなしですよ
ヨルの父
ヨルの父
は?
そいつはもう…

私なら、ヨルを救えるはず。
そう信じて、私は自分の手首を噛みちぎった。

ヨルの父
ヨルの父
ば、馬鹿な…!