第3話
吸血鬼は人間アレルギー!?
なんとか彼を家までお持ち帰りして
自分のベッドに寝かせたはいいものの…。
そう文句を言うと怖い夢でもみているのか
彼は苦しそうに寝返りをうった。
熱を測ろうとおでこに触れると
やけに冷たくて氷のようだ。
吸血鬼、ましてや男の子を
部屋に入れたのは今日が初めて。
彼を自分のベッドに寝かせている
この状況が突然恥ずかしくなってきた。
これじゃまるでイケメン吸血鬼の誘拐じゃん!
あのまま彼を置き去りにしてくることもできたけど
初めて目にした吸血鬼への興味とオタクとしての
探究心がそれを許さなかった。
きめ細かい白い肌に
鋭い牙がチラリと見える。
でも星がきらめくような夜色の瞳を持つ吸血鬼なんて
今まで調べた文献には1つも載っていなかった。
思い立ってクローゼットを開ける。
中には今までこっそり集めてきた
吸血鬼の資料がびっちりと詰め込まれていた。
新聞の記事に吸血鬼向けの専門誌
イケメン吸血鬼の写真集やぬいぐるみから
古い吸血鬼の歴史書まで取り揃えている。
ドサ!ドゴッ!バサッ!!
奥のものを引っ張り出そうとしたせいで
大量の本が上から降ってきた。
そうつぶやいた時
後ろのベッドがかすかに軋んだ。
がばりと起き上がった彼と目が合う。
ベッドの上で後ずさる彼。
ひどく怯えた様子だ。
まぁ知らない女に誘拐されたら怖くもなるよね。
答えない彼。
ギロリと彼に睨まれ気付いた。
私としたことが
自己紹介をすっとばしてた!
血を吸われた首元に手を当てると
傷痕はすっかり消えていた。
私は強引に彼に迫り
自分の手首をその口元へ差し出す。
興奮気味な私とは裏腹に
彼は心底嫌そうな顔で私を避けて出窓に手をかけた。
ガラッ!
彼は突然出窓から飛び降りた。
次の瞬間───。
背中から黒く大きな翼を生やした彼が
空高く飛び去っていく。
私は夜空のはるか遠くに
彼の姿が見えなくなるまで見つめていた。
彼との出会の余韻に浸っていると
勢いよくドアをノックする音が聞こえた。
クローゼットから雪崩のようにはみ出し
散乱している吸血鬼の資料の山。
私の父はなぜか吸血鬼を頑なに嫌っている。
そう言いながらゴミ袋に
吸血鬼の本や資料すべてを詰め込んで
父は部屋を出ていった。
我ながら諦めの悪いやつだと思う。
ふと目線を落とすと薬指のアザが
少しだけ濃くなっているような気がした。