第27話

母の死の真相
4,193
2022/07/08 11:02

あの日、路地裏にいたのは絶対にヨルだった。

でも狭間くんとのデートの日から
ヨルが現れる気配は全くなくて、
あっという間に1ヶ月が過ぎていった。


そんなある日、学校に突然連絡が入る。
先生
落ち着いて聞いてくれ
君のお父さんが病院に
運ばれたらしい
佐藤みくる
佐藤みくる
え…!
先生
最近、物騒だろ?
もしかしたら吸血鬼
関連かもしれない
今すぐ病院に向かうんだ
佐藤みくる
佐藤みくる
は、はい!!

私は父が運ばれた病院に急いで駆けつけた。
佐藤みくる
佐藤みくる
(どうしよう…もし
何かあったら…!)

意を決して、病室のドアを開けようとすると
中からかすかに笑い声が聞こえた。
佐藤みくる
佐藤みくる
あれ?

そっとドアを開けると、
ベッドに寝そべる父が穏やかに笑っている。

そしてその隣には、
フードを深々と被った女性が座っていた。
佐藤みくる
佐藤みくる
だ、れ?
その女性の顔を見た瞬間、
とある記憶がフラッシュバックする。


​───────
​─────

家のリビングで、真っ黒なローブを纏った
長髪の吸血鬼と対峙するお母さん。

まだ小学生だった私はただ立ち尽くし、
その様子を見ていた。
みくる、今すぐ逃げなさい!
私が時間を稼ぐから!!
みくる
お母さんは?
私は大丈夫よ
だから玄関まで思い切り走るの!
行って!!

それが私と母との最後の会話だった。


​─────
​───────
佐藤みくる
佐藤みくる
うっ…今のって…
頭がひどく痛む。
佐藤みくる
佐藤みくる
おかあ、さん?
霞む視界の中で、父の隣に座る女性がこちらを振り向く。
その顔が最後に見た母と重なった。

まるであの日から時が止まったかのように
変わらぬ若さで母はそこにいた。
みくるっ!!

母は私に気づくと、
一直線に走ってきて私を抱きしめた。
佐藤みくる
佐藤みくる
なんで?
どういう…こと?
ごめんね、ごめんねみくる

私を抱きしめる身体はとても冷たくて、
口元からはまるで吸血鬼のような牙が覗いている。

昔より赤みがかっている瞳には涙が滲んでいた。
佐藤みくる
佐藤みくる
お、お母さんっ!
ごめんね…みくる…

なぜか自然と涙が溢れてきて、
2人して一緒になって泣いてしまった。







落ち着いたか?
佐藤みくる
佐藤みくる
う、うん…
あなたには色々話さないとね
君は悪くない
悪いのは…吸血鬼だ
今では私もその吸血鬼の一人よ
あなたは私のことが嫌い?
そ、そんなわけないだろう!
佐藤みくる
佐藤みくる
あ、あの〜…
あら、ごめんなさいね

こんなに取り乱し、
表情をころころと変える父は初めて見る。

まったく、娘の前でいちゃつかないでほしい。
私はね吸血鬼に襲われて
…1度死んだの
佐藤みくる
佐藤みくる
それって私の…せいだよね?
お母さんは私を庇って吸血鬼に…
いいえ!
私は母親として
当然のことをしたまでよ
だからみくるはそんな顔しないで
佐藤みくる
佐藤みくる
なら、どうしてすぐに
帰ってきてくれなかったの?
私も帰りたかったのよ
でも、できなかったの
佐藤みくる
佐藤みくる
できなかった?
死んで、もう一度目覚めた時
私は吸血鬼になっていたの
そして初めての吸血衝動が
抑えられなかったの
喉が渇いて渇いて
このまま一緒にいたら
私があなたたちまで…
もういい!
それ以上は言わなくていい!
みくる、あなたを
どうしても失いたくなかったの
だから死んだことにして
あなたたちを守るために
自ら身を隠したの
佐藤みくる
佐藤みくる
お母さん…
私ですら君はもう死んだと
思っていたよ
みくるはショックから
事件の記憶を封じ込めてしまったし…
佐藤みくる
佐藤みくる
だから事故で亡くなったって
言ったんだ…
ああ、辛い記憶を無理に
思い出させるなんてできなかった…
本当に…ごめんなさい
だけど、あなた達に会うためにずっと
とある研究をしていたの
そのおかけでやっとこうして
会えるようになったのよ
佐藤みくる
佐藤みくる
じゃあ、もう一緒に居られるの?
ええ…

少し申し訳無さそうにうつむいた母。
そして意を決したように私をまっすぐ見据える。

もう、今更母親なんて
胸を張って言えない…
でも、これからまたあなたと
一緒に暮らしてもいいかしら?
佐藤みくる
佐藤みくる
そんなの…当たり前でしょ
おかえりなさい、お母さん!
みくる…!ありがとう!

母は私の両手をぎゅっと包み込むように握る。

手はすごく冷たかったけど、
なんだか心はぽかぽかと温かかった。
佐藤みくる
佐藤みくる
あれ?
じゃあお父さんが
病院に運ばれたのって…
突然私が現れたものだから
びっくりして倒れちゃったのよ
面目ない…
ただの貧血だ…
佐藤みくる
佐藤みくる
なんだ、よかった…

母はそっと私の手を離すと、
ふと私の薬指に視線を落とした。

そこには薔薇のようなシルシが浮かび上がっている。
みくる、これ…!

母は慌てた顔で私の薬指を凝視した。

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