第1話
イケメン吸血鬼が降ってきました
ここは人間と吸血鬼が共存する世界。
2つの種族はお互いを傷つけないように協定を結び
助け合って生きていた──。
というのは表向きの話。
実際のところ人間は密かに
吸血鬼への恐怖心を捨てきれずにいた。
学校の休み時間。
私は親友のはるかにスマホのニュース速報をみせた。
どうやらまた吸血鬼が人間を襲ったらしい。
うっとりと妄想に耽っていると
はるかはいつもの呆れ顔でため息をついた。
私が吸血鬼への愛を語るたび
友達は減っていった。
唯一友達でいてくれたのがはるかだ。
そう。
私、佐藤みくるは自他ともに認める吸血鬼オタクだ。
青春真っ只中の高校2年生にも関わらず
彼氏も作らずに吸血鬼の情報集めに熱中している。
クラスのみんなから「変人」と呼ばれるのにも
もう慣れっこだ。
こうしていつも持ち歩いているノートに
吸血鬼情報をメモるのが日課だ。
そんな私でも吸血鬼には
まだ一度しか会ったことがない。
なぜなら人と吸血鬼は行動時間を昼と夜に分け
お互い干渉しあわないように生活しているからだ。
はるかは私の手をとって
薬指をまじまじと見つめた。
知らない内にできていた薬指のアザ。
不思議とこのアザを見ると懐かしい気持ちになった。
私は空返事をして
また吸血鬼の情報収集へと戻った。
────そして放課後。
私は誰よりも早く学校を出た。
人間は吸血鬼が行動を開始する19時までに
家に帰らなければいけない。
ただでさえうちは門限が厳しいから
登下校のわずかな時間さえ無駄にできない。
吸血鬼に会うため
私は危険を承知で例の事件現場へと向かった。
スマホのマップを見ながら歩道橋を歩いていた
その時───。
ドサッ!
上から人が降ってきた。
まさか飛び降り!?
なんて思ったけど
どう見ても周りには高いビルなんてない。
恐る恐る近づくと
倒れているのはどうやら背の高い男の子みたいだ。
黒いフードからちらりと覗いた肌はまるで
陶器のように白い。
閉じられた目の下には寝不足のような黒いクマ。
長いまつげとひどく整った顔立ちに
ドキリと心臓が高鳴った。
我慢できずに顔を覗き込む。
よく見ると薄っすらと開かれた口元からは
鋭い八重歯が覗き、唇は真っ赤に濡れていた。
そう叫ぶと、倒れていた男の子は突然起き上がり
目の前で盛大に吐いた。
キラキラと謎の効果音が流れるほど
それはそれは綺麗な嘔吐だった。
地面には真っ赤なゲロ。
そして、夜空みたいな青い瞳と目があった。